第6回 小学校からの接続
中1初回授業での言語活動の工夫
~小中のスムーズな接続を目指して~
加瀬政美 (千葉県旭市教育委員会 外国語教育アドバイザー)
小学校でも外国語(英語)の授業が教科化されて以降、英語に苦手意識をもった状態で中学校に入学してくる生徒は少なくありません。しかしそこで、「もう一度スタートラインに立ち中学校で英語を学んでみたい」と思えるように、学習者の気持ちを駆り立てるのが中学校英語教師の役割です。
『ONE WORLD English Course』において、中学1年生が4月の授業初回で出会うコーナーはSpringboardです。ここでは、中学校での学習開始に際して、「中学校で行う言語活動は、小学校で学んだ土台があればクリアできること」、「たとえ未習の内容でも既習の知識をもとに思考・推測しながら取り組んでいく姿勢が大切であること」を意識づけさせたいものです。
今回は、Springboard 2に一工夫を加えた言語活動を取り上げます。ここでのねらいは、まず小学校での既習表現がどれだけ定着しているのか、実態を把握することです。またそれだけではなく、これからの中学校の英語学習に向けて、コミュニケーションを行う目的や場面、状況に応じてより一層目を向けながら思考を豊かにさせ、安心感と希望をもって取り組んでいけるようにすることです。Springboard 2は、1見開きのイラストのなかに14の会話場面が用意されており、音声を聞いてどの場面か当てる活動です。しかしそれだけでは、中学校で行う言語活動につながっていきません。そこで、イラストの場面に合わせたオリジナルの会話を考えてペアで行う言語活動も指導書に例示されています。
(例)
<⑦の会話例>※音声スクリプト通り
A: What time did you get up? B: I woke up at six o'clock to make breakfast. |
<⑦のオリジナル会話例>
S₁: Are you OK? S₂: Yes, but I am very sleepy. S₁: What time did you get up? S₂: I got up at six. |
ペアになり、どの絵にするか自分たちで決めて絵の内容に合ったやり取りをするという活動であります。ここに、さらに一工夫を入れた活動を紹介します。
1. ペアごとに①~⑭のうちで好きな場面の絵を選択し、言語活動の前に、コミュニケーションを行う目的や場面、状況を設定する。
(例)
<④の会話例>※音声スクリプト通り
A: My name is Taro. I like basketball. |
<④のオリジナルの状況設定例>
S₁:タロウとその姉、ユミの会話という設定にしよう。 S₂:姉との会話なら、英語で話す必要があるかな?英語の得意な姉に英語を話す練習に付き合ってもらっているのかな。 S₁:そうだね、ユミと同じ大学に通う留学生のダンが今度家に遊びに来る。そして、「ダンはスポーツが得意だ」と聞いたタロウはユミに『お姉ちゃん、ダンと話す練習の相手になってくれる?』と頼んだところからスタートしよう。では、Helloから行くよ! |
2. この状況を理解してから、タロウとユミと同じ場面からやり取りを始めましょう。
(例)<会話例>
ユミ : Hello. My name is Dan. I'm from Canada. Nice to meet you. タロウ: I'm Taro. Welcome to my house. Nice to meet you, too. ユミ : I like sports very much. Do you like sports? タロウ: Yes. I like baseball, soccer and basketball. ユミ : Oh, you like basketball. Can you play basketball well? タロウ: Yes, I can. I'm good at basketball. ユミ : Oh, good. Let's go outside. Do you have a basketball? タロウ: Yes. Let's have fun. |
この活動を進めるに当たって3つの留意事項:
ア コミュニケーションを行う目的・場面・状況の設定は、教師が作るのではなく生徒が作成し、そこになぜ英語を話す必要があるのかを留意させながら協働して考えさせます。生徒同士のインタラクションを通して多面的な学びの機会を得るとともに、1人でできないことでも仲間と協力することによってクリアした喜びは、英語学習に限らず生徒にとって貴重な経験になります。また、自分たちと同じ場面での他のペアの取り組みを見ることも気づきが多く、学習の動機づけに繋がります。
イ ペアワーク(話すこと)等の前に、言いたいことを事前に英文で書かせるのはやめましょう。養いたいのは、話すスキルです。書くことが苦手な生徒もおり、これによりやる気を削がれてしまう可能性もあります。教師が書く活動へのフォローに手をかけ、本来すべき活動に時間が割けなくなるのも残念です。言いたいキーワードを声に出して練習させる等、あくまで口頭で表現する準備ができるように指導しましょう。
ウ ペアワークのなかで、ワークシートの表等を使って情報を埋めながら、学習者にインタラクションをさせるのはやめましょう。
相手が言っているのを最後まで聞かないで、そのシートを埋めることが目的になってしまっている場面を多く見かけます。一方通行に言いたいことを主張できれば良いというわけでなく、聞き手としての態度まで育ててこそ、相手意識・他者意識が育ちます。そんなコミュニケーション能力を育てたいものです。
連載の最後に
教師用指導書では、オススメの指導モデルがあります。そのモデルが、果たして違う環境、違う実態で学ぶ全ての学習者に当てはまるでしょうか? 実際の授業では、上手く活動できることより、上手く活動できなかったことの方が多いものです。それをたくさん経験することも現場の教員の「強み」だと私は捉えています。この上手くいかなかった経験があるからこそ、「次こそは」とより良い授業を追求するのです。指導書のモデル以上に目の前にいる学習者にとって最適な指導を追求し、日々提供できるのは現場の教員の皆さんです。
また、生徒の言語活動でも「上手くいかないこと」は大事です。「こう伝えると相手が理解できないんだなぁ」と学ぶ機会を言語活動のなかで意図的に仕組むようにします。そして、言語活動後には「何ができたか」を言語化しながら、振り返りをさせます。できたことが言葉で説明できると、生徒は本当に力がついたと実感できます。
大事なのは、「あれ、上手くいかないなぁ。」「じゃあ、どうしよう?こうかな?」「これなら相手がわかってくれた。なるほど。」「よし、もう一回!」という主体的に学習に取り組む態度です。上手くいかないことにぶつかりながらも、「粘り強さ」と「自己調整」をもって主体的に取り組み続ける姿勢を育てたいものです。
そして、これを効果的にするには、クラスメイトとのペアワークがゴールではいけません。やはり、ゴールはネイティブであるALTや母語が日本語でない外国人とのコミュニケーションでないと、いつまで経っても内発的動機付けにはなっていかないと思います。知識・技能の習得も大事ですが、それ以上に「もっと英語をやりたい」という気持ちが心から湧くような指導をすることが、小・中学校の英語の教員の大切な役割であると思います。「あれ?この活動は生徒が活発に表現しているけど、英語でする必然性があったかな?」などと自問しながら、研究会等の授業を観察してみることも大事です。
今回で、連載が終わります。ご愛読ありがとうございました。
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