1.いつも黙って座って静かにしているのに,学習効果が上がらない子ども
(担任の先生との協働指導の実際です)
いつも黙って座っていて,静かにしています。迷惑をかけないのでつい声をかけることなく一日を終えてしまいます。
特に黙って座っていていつも静かにしている子どもは,学習している内容がわかって理解しているのだと思い込んでいました。ところがこの時期に来て,ひらがなは書けますが,漢字はなかなか定着しません。一語一語は読めても言葉のまとまりを捉えて読むことはできません。静かに座ってはいましたが「聴いていた。わかっていた。」わけではなかったのです。保護者の方にも家庭での様子や学校での話をどのように伝えているのかなど伺いました。すると,学校では静かにしていることが「いい子」だという思い込みをしていることがわかりました(担任の先生の話)。
なぜ,そのような思い込みをしてしまったのでしょうか。担任の先生と一緒にその理由を考えてみると,思い当たるのは前学年でのことです。学年全体が年度初めから常に騒がしく,子どもが学習中に歩き回ったり,常に誰かが喋っていたりしていて落ち着かない状態でした。「静かに,静かに!」と担任が言い続ける毎日。先生も声を荒げるなど,感情的になってしまうことさえありました。
このような学級での毎日ですから,その子どもはとにかく静かにしていることが「いい子なんだ」と思っていたのです。担任の先生は確かにその子を見るとホッとしてつい「いい子だなあ」と思っていたそうです。子ども自身も先生も,ともに黙って静かに座っている子は「いい子」と思いこんでいたのです。
そこで,必要な指導の内容と方法を考え,私も一緒に指導に入ることにしました。
入門期は「聴く力」をつけることが指導の基盤ですが,黙って座っているということは,聴いているかどうかもわかりません。しかし,学力がついてきていないということは少なからず「自分で聴いて活動するという意識」がもてていないと考えました。
意識的にその子どもに「今なんて言ったか言ってみて」と問い返し,聴いているのかわかっているのかを把握しながら,指導を続けました。夏前に何度か指導したことのある学級でしたので,その子どものことは覚えていました。今思うと,黙って静かに座っていたあの時も私をじっと見つめていた目は困ったような視線で「わからないよ」と言っていたのかなと思い出しました。子どもの困り感に気がつかず申し訳なかったと深く反省しました。最近は黙っていることが少なくなり,小さな声ですがつぶやきも出てきました。目も生き生きとして笑顔も多くなってきています。
また,聴く力をつけることと並行してこれまでについてきていない学力を取り戻すために個別指導を意識的に行い,できていないことわかっていないことをその都度把握しました。原因を分析しながら,文字通り手取り足取りの指導です。個別指導の時間は,一人学びの時間を使いました。
学級は担任が一人で指導することが学校教育での主な姿ですが,今では特別支援コーディネーター等複数の専門的な教師との協働指導も可能な時代です。一人で考え込まず,学年の先生や先輩などにも積極的に相談し,よりよい指導の力をつけていきましょう。先輩の先生たちは,相談されることを待っています。