☆コラム 教師の役割と言葉
学級経営では,あたたかな人間関係を育みます。学習場面でも子どもどうしが話し合い,考えを高め合い,学び合うのです。そのためには,子どもどうしの横の糸を紡いでいくことが重要です。横糸は「授業の中」で紡がれていきます。カギは「教師の言葉」です。子どものつぶやきを引き出し,つなぐことで,学び合いを実感させ,子どもどうしの学び合いに結びつけていきます。
教師の役割と言葉は,
(1)子どもの言葉を繰り返さない。
(2)子どもが自分の考えをもてるように,待つ。
(3)考えをもつためのヒントや考えを広げるためのヒントを少し与える。
(4)できるだけ,極力,しゃべらない。
1年の5月。谷川俊太郎氏の詩「うんとこしょ」を教材とした国語科の授業です。
「心って,なあに」一人の子どものつぶやきから,その場面が展開しました。日頃から,わからないことは聴くことと指導していました。
教師は,子どものつぶやきを繰り返さず,そのまま子どもたちに投げかけました。
教師 「みんなはどう思う?」
子どもたち 「しんぞう」と胸のあたりを指しながら
「この辺」頭を指して
「むね」わかったように自信をもってあちらこちらで言葉が飛び交う。
教師 つぶやいた子どもの表情を見取りながら,「わかった?」と訊くと
子ども 「わかんない」と,首をかしげる。
教師 「どうしよう?」
子どもたち 思いつくことは全部言ったけれど,わからないなと残念そう。かつ,困惑して,しんと静まり返ってしまいました。そこで朝の会の歌う習慣から
教師 「歌を歌ったときどんな気持ちになる?」と問いかけると
子どもたち 「楽しい」「嬉しい」「いい気持ち」「明るい」「元気になる」「すっきり」などなど,口々につぶやきます。
教師 子どもたちのつぶやく言葉を一言ずつ指折り,(決して繰り返さず)両手に包み「このぜえんぶを,心っていうの。」とつぶやいた子どもに差し出しました。
子ども 上気した顔で嬉しそうに頷きました。
教師 「よかったね。みんなにありがとうしよう」
子ども 「わかった。ありがとう」
子どもたち 「よかったね。わかって。」
教師 「学校ってね。こうやってみんなで考えて,わからないことをわかるようにするの。」
学校の学びとは,どのようなことなのかを知らせました。
学級の約束をつくって学級経営に取り組んでいますが,学習とは結びついてはいかない気がします。学力をつけることと学級経営とは別のものなのでしょうか。
【答え】
学力をつけることは,学級経営の中に含まれています。
学級経営とは子どもたちの学校生活のすべてを包み込むことだと考えます。
【なぜ】
学級経営というと,心を育てることだけに傾斜がかかり,学力をつけることと学級経営とが乖離していないでしょうか。
学級経営の基盤は子どもを「愛すること」であり,育てたい力は,あたたかな人間関係を紡ぐ「心」と「学力」なのです。したがって学級経営とは,学校生活における全てのことを網羅する取り組み,と捉えています。そして,これらを育てる場は,「授業」です。
なぜなら,人間関係づくりも考える力をつけることも,よさに気付き認めることが出発点です。その場面は,共通の課題を通して共に考え合い,高め合う授業の中にこそあるからです。
あたたかな人間関係を育む心は,自分のよさも他者のよさも受け止め認める,受容と共感から育ちます。自分の考えを発信するだけでなく,友達の考えを聞いて受け止め,自分の考えを再考します。互いに聞き合い認め合うことで,よりよい考えに高め合うことができるのです。これが学び合いです。
友達の考えを聞くことがその心を受け止めることであり,自分の考えと比較し,再考することが,共に育つ姿なのであり,学び合いです。まさに学び合いの過程で,受容と共感の心が育まれていくのです。
さらに,授業では各教科の切り口の違いから,多様な考えをもつことができ,互いのよさを数多く見合うことができます。しかも1日6時間,毎日「学びの場」があるのです。
また,受信・思考・発信とPISA型読解力をつけるプロセスを見てもわかるように,その基盤は,「聴く力」です。生活の中でも学習の場でも自分の考えを高めるためには,友達の考えを聞くことが出発点です。教師や友達の話を聞くことが学習の出発点なのです。したがって人間関係を育てることも,学力をつけることにも共通している力は「聴く力」です。
このように,学校生活における全てのことは深く関わり合うからこそ,子どもたちに力をつけていくことができるのだと考えます。
学級経営とはどのような取り組みなのか。手法に走る前に基本の考え方を熟考しましょう。