新年度に向けて,春休みにしておくことを教えてください。
入門期の指導は,大型連休までの期間,一気に学級づくりを進めます。
楽しく力のつく学びのため,受容・共感のあたたかな学級づくりのために入門期特有の指導内容があります(具体的な指導内容は既述の項をご参照ください)。
子どもたちは,何もかもが初めてですから,指導にも定着にも時間がかかります。教師の話し方にも,より具体的でわかりやすい工夫が必要です。また,保護者の方々もご自分たちの小学校時代とは違いますから,質問も要望も数多くあります。
入門期は普段以上に体力が必要な時期です。入学式から一人一人の指導に力を尽くし,子どもたちの下校後は入学に関する数多くの書類整理などに追われます。
ですから,入門期指導の見通し,授業の見通し,教科書等教材研究,名簿作りや教室環境づくりなどと共に,教師自身の生活の見通しまでをももっておくことが大切だと考えます。具体的に,次の4つの項目を考えてみましょう。
- 教室環境を整える
- 入門期の指導内容を把握し,教科書に目を通し教材研究をしておく
- 名簿作成等,事務的な準備をしておく
- 入学式に備えて(教師としての準備)をしておく
1. 教室環境を整える
(1)明日も来たくなる教室 意外な影響力 「色と量」
「学習する場」であることが感じられる落ち着いた教室づくりを心がけます。
教室は学習の場です。色や飾りは精選します。入学式や一年生の教室だからといって,あれこれと飾り付けることが必ずしも楽しい教室に結びつくとは考えません。むしろ少ないかなと思うくらいが丁度よく,シンプルにすっきりしている方が落ち着きます。なぜなら,環境は子どもの心に重要な支援となります。したがって,あまりに多くの飾り付けに囲まれていると,落ち着かず,気持ちが散漫になってしまうからです。
そして,飾りは,飾っているうちに壊れたり落ちたりしない,「きれいが保てる」飾りにします。
また,色は気持ちを左右します。晴れた日は元気が出ます。曇りや雨の日が続くと気持ちが沈みます。晴れた日には,太陽の光で木々や葉など自然も物も色が鮮やかに見え,曇りの日にはくすんでいるように見えるからでしょうか。どちらにも,それぞれの美しさはあると思いますが,気持ちは違う気がします。ましてや,入門期の子どもです。色が与える影響は大きいと感じます。
子どもが落ち着いて一日を過ごす教室。明るくて淡い色を教室づくりに使います。教室は,子どもたちがいて,その明るさが生まれます。必要以上に色を多用することも,強い色を用いることも必要ないと考えます。
(2)安全で安心な教室 必要なものだけが出ている教室
目に見える余分なものは心をざわつかせます。ですから「毎日・毎時間必ず使うものだけ」を出しておきましょう。他のものは「見えない形」で片付けておきます。この見えない形が重要です。目に見えるものが多いほど落ち着かないからで,これは大人も子どもも同じです。子どもたちから見えないことが重要なポイントなのです。教師用ロッカーや書棚などを活用して,出しやすくしまいやすいことが,常に「きれい」を保て「心の安全」につながります。
そして,子どもたちの机周りにできるだけ物を置かないことは別項で記述していますが,教室内を見回していつも気になるのが教師用の机やロッカー周りです。子どもたちの提出物よりも,教師の紙類,文具類などが山積み...。自分では気づきにくく,他からも言われることがないので,どの子どもの机よりも物があふれていることが多くみられます。教師用の机は,意外と盲点なのです。入門期は特に「先生聴いて.見て」と,教師用の机の周りに多くの子どもたちが集まってきます。文具は必須ですが,はさみなどの刃物はしまっておきます。集めた書類など個人情報等のものには,特に気をつけましょう。
また,黒板周りやごみの始末,ごみ箱の場所など,清潔な教室づくりにも気を配りたいものです。さらに,黒板には「何も貼らないこと」を心がけたいものです。黒板は,学習の流れや子どもの思考を「見える化する場」です。学習に使う大切な場であることを示す意味でも清潔に簡潔にしておきます。
安全・安心に配慮し,毎日使う,毎時間使う,必ず使うぐらいの厳しい目で使うものだけを出すなど落ち着いた教室づくりを工夫しましょう。
2. 入門期の指導内容の把握と教科書に目を通し教材研究をしておく
入門期には,教科書での学習とともに,学習指導要領には載っていない入門期特有の指導内容があります。このことを把握して指導に取り組むことが,入門期の指導の成否を決めるといっても過言ではありません。
例えば「はい」と返事をすること。入学して初めての自己表現です。知らない友達。多くの人々。その中での自己表出は,子どもにとって大きなハードルです。そして「はい」と返事をすること,それを受け止めることは,子どもの自己表現とともに教師との信頼関係を結ぶことにもつながります。
入門期の指導は,学習内容と違って指導書に載っているわけではありません。学校によっては,入門期の指導として指導計画が作成されているところもありますが,多くの学校では高学年の指導に重点がおかれ,入門期の指導については担任の先生任せになっているのも現状です。十年ほど前には,小一プロブレムと言われ,入門期の指導の重要性が求められましたが...。
入門期は,生涯の学びのスタートとして学びの満足,友達と学ぶ楽しさを味わわせる大切な時期なのです。この時期に「わからないから学校に行く」という意識が当たり前になり,「わからないことがわかるようになる」「できないことができるようになる」「できることが増える」などを実感することは,生涯学び続けるエネルギーに点火することにつながります。
「何を」「どのように」指導していくのか。それはなぜなのか。それはどのような力をつけることにつながるのかを,特に「なぜ」を考えることからご自身の入門期指導の道筋をもっておくことが大切です。
入門期は,他の学年とは違う指導があることを意識しましょう。
さらに入門期の教科書には,文字が書かれていないものもあります。何を指導するのか困るという声もききます。大丈夫です。「つけたい力」は何かを見通しておいたら困ることはありません。いつも「つけたい力」「評価規準」「教材」そして「指導の過程」を考えます。ただ入門期にはつけたい力の具体をつかんでおくことが指導の鍵です。時間のある春休み中に指導書や学年会での研究などでしっかりつかんでおきましょう。
教材研究とは少し話がそれますが,入学したての頃の活動例を挙げておきます。
言語活動への結びつきを考え,詩の音読や初めてのお名前書き。リズムよく覚えやすい詩を選んでみんなで音読します。声を合わせる楽しさを通して友達との心の通い合いも味わえます。初めてのお名前は,クレヨンなど柔らかい筆記具で自分の名前をひらがなで書きます。一文字ずつ色を替えるなど,飾ることを知らせておきましょう。書けない子どもへの支援や配慮を忘れずにします。また,歌を歌うのもよいでしょう。誰もが知っている歌が活動を盛り上げます。効果や身になじんでいる歌を選びましょう。伴奏は音源を使えば教師も共に活動できます。
3. 名簿の作成等事務的な準備をしておく
入学式に配布する名簿は,特に誤字がないように,そして全員が載っているかを確認します。入学名前の記載は,学校にとっても子どもにとっても保護者の方にとっても重要なことです。中には記念として保存しておく方もあります。くれぐれも間違いのないように,複数の目で確認をしておきます(入学式の準備等については既述の項を参照してください)
学級で使う名簿は,さまざまな場面で使えます。提出物の確認などだけではなく,子どもたちの学習状況や友達関係の記録,気になることの記載などに活用できます。
それぞれの目的により形式を工夫しておくと,記録が指導に役立ちます。学習だけでなく,給食や掃除,朝会での話の聴き方や並び方など,生活全体から一人一人のよいところを記録しておくことができます。懇談会での資料にもなります。入門期の子どもの成長は著しく記録をしておかないとその子の伸びを見逃すことになります。指導に生かすことを意識して工夫した名簿を準備しましょう。
4. 入学式に備えて(教師の準備)
まずは服装を整えます。子どもは清潔で明るい色の服装,きれいな色の服が好きです。見ているだけで元気になります。「明るく元気な先生」が好きだから,服の色にも気持ちが影響されるのです。
残念なことに,最近は,結婚式でも「黒の一団」を見かけ首をかしげることがあります。黒のスーツならスカーフやブラウス,ワイシャツなどで色を入れたいですね。入学式は,これから始まる生涯の学びへの「初めの一歩」です。華美にする必要はありませんが,受け入れる教師自身が「お祝い」という意識をもって臨みたいものです。そして髪型にも気を配りましょう。いずれも清潔な印象を心がけましょう。
次に,入学式関係で使うプリント類は,自分の言葉で説明できるようにしておきます。入学式や学級指導などの必要な書類は,自分用のファイル一つにまとめ,簡潔にわかりやすく説明できるように書き込みをしておきます。
話し合って作成したプリントでも,自分自身の言葉で話せるようにしておくと,聴き手にもわかりやすく伝わるものです。プリントをそのまま読んだのでは,子どもや保護者には伝わりません。学校のことを何も知らない方々です。相手の立場にたってのわかりやすさを考え,説明の仕方を工夫します。誰でも小学校で学んでいますから,自分の子どもの頃の学校を今の学校と同じと考え,わかっていると思いこんでいる方々も少なくありません。むしろ多いといってもいいくらいです。
ですが,社会は急速に進歩・変化し転勤の経験がある先生方にはおわかりと思いますが,地域や学校が変われば,入学式一つでも微妙に違いがあります。その学校の「やり方」に慣れるまでには1年かかります。
「知らない」,「わからない」ことを前提に,丁寧な説明ができるよう,よく内容を把握して,疑問な点は早めに解決しておきましょう。