学習発表会の計画の仕方や指導など,子どもたちの思いが生きる会をつくるための工夫を教えてください。
【答え】
子どもたちの力を十分に発揮することができる会をつくるには,「段取り」と「見通しをもつ力」が重要なカギとなります。
内容は三つ。(1)全体の構成(2)進行(3)会場づくりです。この三つは連動しています。一つ一つの意味や意義を考え,かつ全体を俯瞰して学習発表会をつくりましょう。
【なぜ】
学習発表会は,子どもたちにとっては「学習して自分はこんなにできるようになった。」と学ぶ喜びを実感し,お家の方に認めてもらうことのできる場です。
また,保護者の方にとっては,わが子の学びの成果を実感できる場です。そして,先生方にとっては,日頃は見えにくい指導の成果を見ていただける場であり,子どもたちや保護者との信頼につながる場です。
私が経験した学習発表会を例に考えます。
毎日時間をかけ十分練習してきました。きっと,素晴らしい発表ができると子どもたちもうれしそうです。保護者の方々も期待しています。
ところが,進行上判断に迷うことが起こると「これはどのようにする」と,先生方が集まって相談します。また,幕間や出入りなど共通理解を図っておかなかったために,無駄な時間が増え,進行が滞ります。
当然,子どもたちは飽きてしまい走り回る,勝手に話すなど会場全体がざわめきだしました。自分たちの出番では,緊張がほぐれ過ぎてしまい,舞台上でふざけながら発表。出番がわからなくなり,何も発表できない子どもや,会場が騒がしく発表の声が聞こえない子どももいます。せっかく毎日時間をかけて練習したにも関わらず,力を発揮することはできませんでした。保護者の方々もがっかりしていました。演目を決めることや練習の指導ばかりに重点をおいて取り組んでいたのです。子どもたちに申し訳ないと思う気持ちでいっぱいでした。教師としての力不足を痛感し,恥ずかしかったです。会全体を俯瞰し,見通しをもって事前の準備や共通理解をしておいたら,このような事態は避けられたはずです。
子どもが力を発揮し,その思いや願いがかなう学習発表会をつくるには「どのような学習発表会を目指すのか」を見通し,「どのような準備や計画が必要なのか」の「段取り」をすることが重要なのです。
【方法】
「いつ」「何を」「どのように」発表するのか。「効果的な全体構成」や思いを十分伝えられるよう発表の時間を確保するための「進行」,そして「会場づくりの工夫」について考えます。
具体的な内容は,次の項をご参照ください。
(1)効果的な全体の構成とはどのようなことですか。
「効果的な構成」とは,会全体を盛り上げ,楽しく進行し「思わず拍手がわく」構成と考えます。「全員で歌う・踊る」を例に,発表の仕方と場について考えます。
まず発表の仕方です。
全員が一丸となって歌や踊りなど躍動感あふれる内容を用意し,明るく元気よく表現する喜びを伝えます。
A案:はじめの言葉,演目の中で歌や踊り,終わりの言葉
B案:全員の歌や踊り演目終わりの言葉
A案は,演目の順番の中で「○番全員の歌」と司会者が紹介して歌を発表します。一方B案は,オープニングでいきなり歌い始め,発表します。曲の紹介はしません。プログラムに書いてありますから。
ABどちらも同じ歌の発表ですが,どちらが会場の雰囲気を盛り上げ,思わず拍手がわき,これから始まる会への期待をもたせることができるでしょうか。
静かな会場にいきなり躍動感あふれる歌や踊りが始まると,会場の雰囲気を一つにまとめ,会全体を盛り上げる効果が生まれます。
このように構成とは,会全体を俯瞰し,子どもたちの思いを効果的に伝えるためには,「いつ」「どこで」「何を」「どのように」工夫するのかを考え,会に関わる全員が「やってよかった」と思える発表の在り方をつくり出すことです。発表会全体を「始まり」,「演目」,「フイナーレ」と三部に分けて考えますが,常に全体を俯瞰して考えることが大切です。
次に効果的な場について考えます。ここでもオープニングを例にします。
A案:舞台上だけで表現します。
B案:全員の姿が見えること,演技の広がりが感じられることを意識して舞台,雛壇,床と場を工夫して表現します。
A案は全員が舞台にのるということを大切にします。隣の友達とも近く,一緒に表現していることをより感じることができます。安心感もあります。ただ,人数によっては,一人一人の顔や演技が見えるかどうか心配があります。
一方B案は,いくつもの場に広がることで,全体に広がりと豊かさを,視覚からも表現からも感じてもらうことができます。一人一人の演技も顔も見やすい。
A案,B案どちらにも利点がありますが,いつも舞台だけ,雛壇だけと一つの場所だけに決めてしまうことなく,いくつかの場を組み合わせるなど,場の広がりを工夫すると,表現そのものにも広がりが生まれ,より効果的な表現となります。
さらに,プログラムの順番を工夫します。
1)発表の形態全員での表現⇒個やグループでの表現⇒全員での表現
2)発表の内容静と動を組み合わせます。見ている側の気持ちになって考えます。
3)道具の準備(舞台づくり)
大きな道具は,準備に時間がかかります。会の開始前に準備ができるよう,プログラムのはじめや休憩時間の後など,会全体の動きを見通して決めましょう。
また,道具の置き場所も,プログラムの順番と関連させ「何を,どこに置くと動きが無駄なく短時間で準備できるか」を見通して,置き場所と動かし方の段取りをしましょう。
(2)学習発表会の進行の意味を考えて取り組みましょう。
進行は教師が行いましょう。
進行とは,会全体の責任者です。楽しく気持ちのよい会ができるか否かの成否を握っているのが進行です。子どもに司会をさせている姿を見かけますが,子どもには場を考え,判断することは勿論できませんから,教師の言葉をなぞったり,覚えたりして話すため,時間がかかります。また,子どもが話し始めるのを待っている教師を見かけますが,一年生に考える力や表現する力を育てる場としては適切ではないと考えます。
子どもに司会をさせることがいけないのではありません。子どもにゆだねることと教師が行うこととを見極めることが重要なのです。何でも子どもにさせることが主体性ではありません。
進行は,時間が命です。少しのずれが大きな時間の遅れにつながります。計画の段階で,会全体の時間,演目の時間,トイレ休憩の時間,演目の出入り時間,準備片付けの時間など,会全体にかかる時間の見通しをもち,時間の段取りをしましょう。
進行の準備を具体的に考えます。
- はじめの言葉は短く,リズムにのって行いましょう。会を盛り上げるきっかけになります。
- 子どもが行う場合は,間延びしない話し方を指導します。練習では,教師の手拍子にのって話すよう指導すると効果的です。
- 演目と演目との間が間延びしないよう,出入りの仕方を工夫し,子どもへは繰り返し丁寧に指導します。
- 出入りや準備に思わぬ時間がかかった時のために,子どもたちが落ち着いて待つことができるような手遊び歌などの幕間の工夫を考えておきましょう。
☆出入りの指導の大切さ
出入りの時間がかかると,二つのことに影響があります。
一つは時間のずれです。もう一つは,会場全体の雰囲気が落ち着かなくなり,表現者は集中を欠き,力を十分に発揮することができません。見ている側も期待しているような楽しさを得られなくなります。ですから出入りの指導が重要なのです。「いつ」「どの場所から」「誰から」と具体的に決めて指導します。
☆「一年生の練習とは」を考え,指導の仕方を工夫する大切さ
練習は,できなかったところで動きを止めて指導します。
できていない部分だけをその場で繰り返し練習し,子どもが自信をもって自分たちだけで行動できるように指導することが大切です。
(3)子どもたちの表現が生きる,安心して表現できる会場づくりを工夫しましょう。
(1)表現が生きる,会場づくり
(1)で述べたように表現が生きる場づくりは,会場づくりと大きく関連します。
会場のつくり方には,ステージに向かって椅子を並べる縦長の形態が一般的ですが,壁側を舞台に見立て,横長に会場をつくることも考えられます。床で表現するので見る人と視線が同じになり,一人一人の動きがよく見えます。
(2)安心して表現できる,会場づくり危機意識をもって取り組むことが重要です。
いつ,何が起こるか予測のつかないこの頃です。座席の配置についても工夫が必要です。
子どもたちの座席は出入りがしやすいように,また危機管理上,安全が確保しやすい場所を考慮して決めます。
子どもの座席を優先して決め,その後保護者席を決めましょう。
どんな場合にも子どもを守ることができるよう,危機意識をもって会場をつくり,運営します。
<避難路を確保しておく>
いざというとき,避難路に障害となる椅子や道具が置かれることがないように十分考慮して配置を決め,教師同士で確認し合います。
会の途中でも,もし障害となるような物品が置かれていることに気がついたときは,即刻取り除くよう,教師同士の共通理解を図っておきます。
<避難誘導の担当を決めておく>
「誰の指示で」「どこへ」避難するのか。子どもへの指示の担当,ドアを開けるなどの避難路確保の担当,外部との連絡担当など,事前に予測できる内容を学校のマニュアルに基づいて決めておきます。
緊急時には,当然全員が子どもを守ることに力を注ぎます。しかし「体育館の中央に集まってしゃがむ」とマニュアルにあっても,それができない場合や,その先はどのように子どもを守る行動をとるのか,意外と考えられていません。
事前に見通しをもち,共通理解し合っておくことが子どもを守ることにつながると考えます。保護者には,日頃から啓発していると思いますが,会の開始前に避難についての確認やお願いをしておきましょう。
<避難の仕方を決めておく>
学校のマニュアルに則って避難誘導しますが,具体的にその内容を把握し共通理解を図っておくことが子どもを守るために重要です。
マニュアルを読んだだけでは,個人の危機意識の違いもあり,いざというとき,判断の誤りや行動の遅れが出ないとも限りません。予測していないことが起こるのが,緊急時の常です。前項でも述べましたように「体育館の中央に集まる」と決められていても,想定外の事態で他の場所へ避難しなければならない事態も考えられます。一次避難だけでなく,二次避難も見通して共通理解を図っておきましょう。