学習発表会や音楽会など,学習の成果を発表する場があります。指導するうえで気をつけることは何ですか。
【答え】
日常の指導との違いを意識して指導に取り組みます。合い言葉は三つ「短期決戦」「工夫の山」「結果を出す」です。
【なぜ】
学習の成果を発表する場と考えると日常の指導と変わらないと考えがちですが,大きな違いがあることを認識して指導に取り組むことが重要です。なぜなら,内容は日常と同じでもそれを表現するためには,日常の学習とは「違う力」が必要なのです。
例えば表現する場は,体育館のような広い空間です。聞き手は大勢の方々で,しかも校内だけでなく地域など知らない方々もいらっしゃいます。声の大きさなど表現の仕方そのものが違います。「もっと大きな声で。」と声をかけても声の出し方そのものが違うのです。この点を見誤ると「結果」につながらず,子どもも先生方も満足は得られないのです。
発表は日常の学習とは目的意識も相手意識も違いがあるのです。この違いに気付いて指導することが「結果」につながります。
【方法】
「短期決戦」とは短い期間に一気に指導することです。日常とは違う取り組みです。毎日コツコツと努力し積み重ねることは大切なことですが,短期に一気に取り組むことでついた力を実感しやすく意欲もわきます。長期にわたって指導しているともっとできることがある,もっとレベルを上げられると,子どもへの要求が高くなり続けます。すると子どもたちはできるまで繰り返し指導される,いつまでもできないという気持ちが全体に広がり,意欲が低下してきます。指導者もできないことばかりに目が行ってしまいます。これでは本末転倒。発表の日時から逆算して期間を決め,「短期決戦」で取り組みます。
「工夫の山」とは「短期」でも「結果を出す」ことができるように指導の工夫を山積みすることです。
次に二つの例を示します。
例1 劇のせりふの表現方法を指導する工夫
工夫1 声を遠くに飛ばす
→ 遠くにいる人にまで声が届くようにする意識をもたせるために「飛ばす」という言葉で指導します。
工夫2 口の形を変える
→ 一語ずつ口形を変えて発音させることで,日常の話し方とは違うという意識をもたせ,遠くの人に言葉をはっきり伝える指導をします。
工夫3 言葉の抑揚を手で示す
→ 言葉の抑揚を視覚化して伝え,心情が表現できる話し方を指導します。
工夫4 表情は体全体で伝える
→ 肩より高く手を挙げる。体の外側に手を広げる。頭の上を越えて手を回す。など広げる範囲を視覚化して示し,心情を豊かに伝えることができる表現の指導をします。
例2 音楽会で歌を発表するための指導の工夫
工夫1
譜読みの易しい曲を選びます。短期で一気に歌えるようになり「やった」実感が得られます。できれば思わず拍手の来る終わり方の曲が選べるとなおよいです。拍手をもらえれば次への意欲もわきます。
工夫2
歌は「声」で決まるといっても過言ではありません。譜読みの易しい曲を美しい声で歌えば確実に他との違いができます。譜読みが易しい分,声づくりや曲想表現に力を注ぐことができます。
工夫3
歌声を強く出すことより,一か所でも声を弱くする箇所をつくると表現が豊かになります。
工夫4
終わり方を工夫します。心に残るのはラストシーンです。終わりのフレーズを繰り返す,ゆっくりする,歌詞ではなくスキャットにするなど子どもたちと歌って試して決めていきます。子どもがいいねと笑顔で納得する終わり方がうまくいく秘訣です。
「結果を出す」とは,子どもも指導者も見ていた方々も「満足」が実感できることです。
例2の歌の取り組みを通して考えます。
難しい曲を選んで努力を重ねることは「頑張った」ことにはなりますが「やった!」という満足感は得られません。なぜなら,難しい曲は乗り越えるハードルが高すぎて例えば音程やリズムの感得表現ができるようになるために,何度も同じ部分を練習しなければ力がつきません。音楽を今よりもっと好きになるという基盤の指導が,こんなに練習してもうまくならないという不満や不安につながり「音楽嫌い」にもなりかねません。かといってこんなに難しい曲に取り組んだのだから,この程度歌えればいいという考え方は,取り組む意味が違うと考えます。子どもが力の伸びを実感し満足できて初めて,取り組む意味が生まれるのです。
「結果を出す」表現とは,歌声が遠くまで飛ぶようになったと実感できること。曲想の変化を実感して表現力の向上が実感できたこと。聴いてくれた人からの評価が得られたことです。これらの実感を得ることで「満足」につながるのです。「難しい曲によく取り組みました。でも向上はしませんでした。」では,満足を得ることも「結果を出すこと」もできないのです。
日常と違う力をつけることを通して,表現する楽しさや学ぶ喜びを味わうことができるよう力を尽くしましょう。