明るく元気のよい子どもたちですが,理解度が低く授業が低迷しています。少しレベルを下げて授業をしていますがうまくいきません。
【答え】
規準は下げずに,B規準の授業を充実させます。
【なぜ】
理解に時間がかかるなど,力をつけるのが難しい子どもたちほど,B規準での授業が必要だと考えます。なぜなら,この程度でいいかなと低いレベルでの授業をしていると,子どもに力がつかないばかりか,先生は自分たちに真剣に向き合ってくれていないと感じ,学習意欲だけでなく信頼をも失います。低いレベルにした方がやさしくわかりやすいと思いがちですが,子どもの気持ちは違うのです。
一年生は,一生で一番学校への期待と学習への意欲が高い学年です。ですから,少し高めのハードルは越えていく楽しみを感じ,「難しそうだけれどやってみよう」と取り組むのです。この時期を逃さず,子どもの力より少し高いと思ってもB規準での授業に取り組みましょう。
見方を変えると,例えば演奏での本番には練習の60%しか出せません。ですから,練習では120%まで指導しておきます。これを授業に置き換えると,60%で授業していたら子どもには36%しか伝わらないことになります。規準を下げても熱意をもって取り組んでいると考えがちですが,できないことをできるようになるまで,一生懸命工夫して授業に取り組む教師の姿に熱意を感じるのです。子どもは指導者の熱意を敏感に感じ取り,真剣に向き合ってくれる先生に信頼を感じ,よし自分たちもがんばろうと意欲的に取り組みます。
【方法】
具体的な姿を示すことです。例えば音読なら「このように読めるといいですね」と,評価規準を示して読みます。速さや発音,言葉のまとまりなど,その時の評価規準を子どもにわかりやすく具体的な姿として示すのです。子どもは目ざすゴールがつかめるので,そこに向かって力をつけようと自ら取り組みます。
B規準を下げて指導されていた子どもたちに出会う機会がありました。音楽です。「この子たちは,気はいいけれど,理解が低くて,歌もリコーダーもできないのでふいていればいいかなと思っています。」と指導の先生。なんだかとても子どもに申し訳ない気がして,思わず私が「この曲学習した?」と訊くと,「ふけるもん」と自信満々に一人一人が笑顔で個々にふき始めました。文字通り「ふいている」のです。音はきこえますが,タンギングもなくリコーダーの音色にはなっていません。フレーズ感もなく6年生のリコーダーとしては残念。そこで,指導の先生にお願いして私が,B規準の演奏を示してみることにしました。
まず,何も言わずに先ほどの曲をリコーダーで演奏し,「これでBね」と伝えると,さっと空気が変わりました。それまで足を組んだり,そっくり返ったりして自信満々に「ふいて」いた子どもたちが,一斉に座り直し姿勢を正して練習し始めたのです。誰より驚いたのは指導していた先生でした。子どもたちがこんなに真剣に練習している姿は初めて見たとのこと。唖然としていらっしゃいました。子どもたちは「よくなりたい」「できるようになりたい」と思って学校に来ている姿そのものでした。
規準を下げることなく,適切なゴールを示して指導に取り組みましょう。