私は経験年数30年以上。これまで自信をもって指導に取り組んできました。しかし,最近,保護者からの相談というより,私への批判が増え,指導に自信がもてません。
【答え】
変わりましょう。つらいですが自分を育てる機会ととらえます。
【なぜ】
今は「一年ひと昔」と言われるほど社会情勢や天候等,あらゆるものの変化が著しい時代です。昔取った杵柄が通用する時代ではありません。ですから,保護者の方の考え方もこれまでとは大きく変化していますね。
子どものことだけでなく自分自身のことにも不安をもち,それが子どもの一つの姿や言動に対するアンテナが敏感になり過ぎていることもあります。保護者自身が不安を抱えている場合も多々あります。学校は誰もが通っていた経験があり,誰でも「学校」について語ることができます。自分が子どもの頃の学校へのイメージや授業への思い込みなどがあります。変化が著しい時代の中で学校教育も大きく変わっています。保護者の方が理解できないのはよくわかります。教師自身さえもその変化に追いつけていない状況も事実と感じています。
ですから,教育のプロとして,著しい変化を理解し実践し,学び続けることが必須です。不安を抱える保護者に,未来を生きる子どもたちに,自信をもって応えられる教師でいることが強く求められているのです。
しかしながら,現実には,授業以外の業務に追われ,気持ちはあっても新しいことを学ぶ時間の確保が難しいと感じている方もあるでしょう。
教師でさえこのような状況ですから,保護者の方々が,今の学校教育や授業について理解しているとは言えません。学校説明会や授業参観等で発信していても,実際に授業に取り組んでいないのですから,保護者の方に理解を求めるのは難しいのです。
だからこそ,私たち教師は,変化に応じた学校教育についての説明ができる力量をつけるため「学び続ける」ことが重要なのです。
【方法】
新型コロナウィルスの影響で,今は研修を受けることは難しい社会状況です。とはいえ,新学習指導要領の実施や学習評価の進化など,じっくり解説を読み理解を深めることは今ならできます。新学習指導要領や解説,学習評価等に関する資料をどれほど読みましたか。読み込みましたか。
子どもは五十年先の未来を生きるのです。教師はその未来をつくる子どもを育てる仕事です。 保護者からの苦情は,やる気を失わせつらい気持ちになります。退職した方々を何人もみてきました。惜しいことです。これまで積み重ねてきた力量を少し見方を変えて,新しい力量として積み重ねましょう。自分を育てる機会ととらえ,変わる機会をもらったのです。今,変わりましょう。
また,「こんな些細なこと?」「大したことない」などと思わず,その現状を聴くことです。先入観や他の教師の評価をうのみにすることなく,自分自身が感じたままを大切にしましょう。
決めつけないことです。なぜなら教員経験年数は長い方でも40数年。決して十分とは言えません。物事を明確にできる数量は二千と言われています。これだけの例を集めて分析し始めてこうだと言い切れるという意味です。
私事で,恥ずかしい経験があります。公開授業研究,研究発表を12年間続けそれなりに自分に自信をもっていた時期がありました。考え方や実践,書いてきた数々の指導案や書籍への寄稿等。しかし50歳を過ぎた大学院での学びで,これまで書いてきた文章が単なる作文程度であったことに気付かされ,愕然としました。経験値だけに頼り,自信をもち述べてきたのです。理論的な根拠やましてや二千もの症例などありません。もちろん,研究方法には質的研究として例数は少なくとも,分析により明らかと言えるものもありますが。知らないとは恐ろしいことと実感しました。この経験から得た学びは,「謙虚になること」でした。
どれほど経験を積み重ね研究に取り組んできても,その時点における着地点での一つの答えです。そして答えは永遠ではありません。社会や時代の変化と共に教育も変化し続けるのです。未来を生きる子どもは未来という社会や時代に生きるのです。だからこそ,学び続け,変わることなのです。
相手を理解するとは,まずは受容し共感することです。教師は常に教えているという意識のもとに仕事をしてきています。ですから,無意識のうちに自分は正しいという意識が身についてしまい,自分の「ものさし」から離れられなくなっている方もあられます。一人一人「ものさし」は違うのです。感じ方も感性も価値観も違うのです。
教師の役割は,違う「ものさし」をもつ子どもたちに,それでいいかなと考えさせ,より良い生き方や考え方を導くこと,それが仕事です。
しかし保護者は大人です。あっている,間違っているではなく,その人が生きてきた過程で構築してきた考え方なのです。その人なりの生き方や感じ方,考え方,そしてそこから紡がれた価値観なのです。指導する気持ちで接していませんか。保護者は,子どもではありません。私たち教師と同じ,大人です。尊厳をもって向き合いましょう。