子どもたちの「同じです。」の声に,つい安心して授業を進めていますが,本当に考えて「同じ」と言っているのか気になります。
【答え】
「どこが同じ?」「どこが違う?」と思いの違いやずれに気づかせ,その中身にこだわって指導しましょう。こだわることで,子どもの思いの中身を明確にすることができます。
この積み重ねが,考える力や言葉の力,そして,自信をもって自己表出する心を育てます。
【なぜ】
友達の発言に対して「同じです。」と答えている姿をよく見かけます。もちろん同じと感じている場合もありますが,ともすると,曖昧なまま反応や習慣として発していることもあります。むしろ,入門期の子どもの場合はこちらの方が多いと感じています。
しかし,「同じ」と応えながらも,全く同じだとは思っていないことを実感しています。子どもに「本当に同じ?」と問い返すと,「ちょっと似ている」「ちょっと違う気がする」と応えが返ってきます。「同じ」と言いながら,違和感をもっていることがその表情からも感じ取れます。
では,なぜ「同じ」と言うのでしょうか。なぜなら,子どもには「何が」「どこ」が同じなのか,違うのかわからない,それほど自分の思いが明確になっているわけではないからなのです。ですから『なんとなく同じ,似ている,違う気がする』と問い返していくと,応えが変化するのです。
また,違うと感じていても,それを表現する語彙が少なく,言葉の力が十分ではないため,わかりやすく伝えることもできないのです。更に,自分と友達との思いには違いがあることや,ずれがあることにも気づいていないため,自分の思いに自信がもてないとも考えられます。
このように,さまざまな理由から,誰かが応えるとよくわからなくても,「同じです。」と言ってしまうのです。このままの状態を続けていると,あまり考えることもなく「同じです。」が反応として習慣化してしまいます。これでは言葉の力も考える力も育ちません。ですから,子どもたちの「同じです。」の声に問い返し,この「違いやずれ」にこだわって一人一人の思いを引き出し,明確にすることが,一人一人の言葉の力や考える力を育てることにつながるのです。
【方法】
「どこが似ているかな,違うのはどこかな」と問い返しながら,対話を通して思いを明確にしていきます。特に,子どもの話の語尾をよく聴きましょう。語尾には,その子どもの思いが見えてきます。子どもの話を最後まで待ってよく聴きましょう。
こんなことがありました。友達の発言に対して感想を聴く場面で「わかりません。」と応える子どもがいました。他の子どもの多くが「同じです。」「わからない。」と呟きました。本当に「同じ?」わからないのでしょうか。
私は「聴こえなかったからわからないの?それとも聴いていたけれども意味がわからないの?」と問い返しました。聴き手にはわからない理由を明確にすることで,話し手にどのように伝えたらよいかを考えさせました。そして,話し手には,聴こえなかったと言われたら,さっきより声を大きくして同じ話をすること。意味がわからないと言われたら,同じ話の言い方を替えることを指導しました。
「たった一言」にも大きな意味が隠れています。それを明確にすることで言葉の力や伝える力が育つのです。子どもの話が滞ると,途中から子どもの言葉をとってしまい,結局「先生の思い」にまとめられている残念な場面を見かけます。子どもの発する言葉や話が止まったときは,よく聴いて機会を逃さず指導しましょう。
もちろん言葉の使い方や表現の仕方が「わからない」と判断したときは,どのような言葉でどのように表現したら伝わるのかを指導しましょう。「わからなくて先に進めないこと」は指導し,「更によくなる,高め広げるためのこと」は支援をします。
そして,学びは,学級全体で取り組むことが重要だと考えます。言葉の力は,人との関わりで育ちます。教師対子どもの一対一の関係だけで学ぶより,学級集団全体で学ぶ方がはるかに力をつけることができます。同じ・違う部分を一緒に考えることを通して,学級全員の言葉の力や考える力を育てましょう。