最近。けんかなど友達どうしの間で問題が起きたとき,いつものように事情を聴こうとしても,子どもたちは黙っていて何も話そうとしないことがあります。なぜなのかわからず,指導に悩んでいます。
【答え】
低学年という,この時期の「成長」を視野に入れて二つの理由を考えてみます。
(1)「自分で解決できるから先生には話さない」これは,成長の表れです。
(2)「先生に嫌われることを心配して話せない」です。
【なぜ】
(1)「自分で解決できるから先生には話さない」
事情を話さないことには,いくつかの原因が考えられますが,この時期には,(1)「子どもの成長」を考えてみましょう。
1年生は,1年間で目に見えるほど大きく成長します。特に10月ぐらいからは,ぐんと成長して,毎日一緒にいてもその成長ぶりを実感することができるほどです。例えば,これまでは声をかけていた係活動にすすんで取り組み,友達と一緒に活動し,ときには協力し合う姿も見えてきます。これまでは「自分」しか見えておらず何でも自分を主張して行動していましたが,この時期になってくると,周りの人やことにも気持ちが向くようになり,友達のことも考えられるようになってきているからです。
それと共に自分自身のことも見えてきて,自分の行動にも気がつくようになってきました。これまでは教師から「それはいけないこと」と指導されていたことも,自分で気づく・わかるようになってきているのです。ですから,自分の心と向き合うことも少しずつできるようになってきています。
しかし,まだまだ成長過程です。「いけないことだ」と気づいても,なぜか我を張って謝りたくない気持ちになることもあれば,謝ろうとしていてもうまくチャンスがつかめず謝れないこともあります。自分のしたことの善悪はわかっていながら,ときにはわがままを通そうとしたり,そうかと思うと,素直になったり。これも成長の一環と考えます。そして,これを繰り返しながら,他者との関わり方を学び,成長していくのです。
気持ちが落ち着いてくると自分が悪かったと気がついて,それまでは興奮して暴言を発していても,少しずつ黙ってもめごとが収まることがあります。言葉で謝らなくても,心の中では「悪かった」と気がついているのです。自分の心の中で解決しようとしている姿なのです。だからこそ,あえて先生から言われたくないと思うこともあります。
子どもが黙ったときには,子どもの言葉だけでなく表情からもその気持ちを推し測ることが大切です。しつこく理由や謝らないことを叱責するように追い込んでしまうと,自分の気持ちを十分に伝えられないため「先生は僕の気持ちをわかってくれない。」と感じ,教師から離れていきます。信頼しなくなります。
全てのもめごとを先生に解決してもらわなくても「自分で何とかできる」のです。それが成長です。「よく話を聞くこと」やその「表情」から,指導や支援が必要なのかを感じ取る,「教師の体感」も大切な力量だと考えます。
(2)先生に嫌われることを心配して話せない。
1年生の12月のことです。
友達の言動が日頃から許せず,その友達の洋服を隠してしまいました。洋服が見つかったときに友達は大泣き。隠した子どもは少し困惑した表情ですが,自分がしたことは隠していて何も話しません。むしろ,これまでに自分がされたことを一生懸命に話し,いかに友達が悪いかを必死で訴えてきました。
言葉では自分の非を認めていませんが,その表情からは,「いけないことをしてしまった。」という気持ちが伝わってきました。日頃のその子どもの行動から考えても,これまでに,よほどの何かがあったかなと想像できました。
しかし,隠したことはいけないことです。指導するためにはその点を明らかにして,それぞれの子どもの気持ちを救いたい,と考えました。
そこで「あなたがもし,何かいけないことをしてしまったとしても,先生はあなたを嫌いになったりしない。」と伝えました。すると大粒の涙を流して「ごめんなさい。」と,泣きながら繰り返し謝りました。悪いことをしてしまったことは十分にわかっていても,それによって教師から嫌われることを恐れていたのです。思いもよらない理由でした。
このように,子どもがけんかの理由を話さないことや謝らないことには,いくつかの原因があります。そのときは,事情を聴く・探るだけでなく「成長」もあると考えましょう。入門期と比べて,この時期の1年生は,心も体も大きく成長してきているのです。素晴らしいことです。
子どもを愛することとは,その心をよく見取り,その成長を感じ取りながら,ときには,じっと見守ることも支援と考え,その時々に,ふさわしい指導や支援を工夫していくことではないかと考えます。
そして,子どもが自分で考え,解決していく力をつけていくための成長を妨げないために,「何でもかんでも答えを与えないこと」も大切なことだと考えます。