☆コラム 子どもの思考力を育てるための具体的な手立てについて考えます。
保護者の方とお年玉について話し合う機会がありました。その中で,思考力を育てることにつながる気づきがありました。「子どもが具体的に思い浮かべることができるとはどのようなことなのか」です。
Yさんは1万1千円お年玉をもっていますが,3万円のゲームを買いたがっています。もっている金額と欲しい商品の金額との差をどのように理解させるか,実例をもとに考えます。
Yさんには欲しいゲームがありました。お年玉は1万1千円。すべて千円札です。ゲームは3万円です。足りないことは何となくわかっていても「買いたい」と思う気持ちは強く,お母さんの「このお年玉では買えないの。足りないの」という話にはどうしても納得できません。
なぜでしょう。子どもには金額の違いが理解できないからです。そこで,お母さんはお店でゲームを見せてこう言いました。
「このゲームを買うには千円札が30枚必要なの。でもお年玉は,千円札が11枚ね」
すると,Yさんは11枚と30枚という違いの大きさを知り,自分のもち金との違いに気づき,ほかのゲームを見始めました。何度話しても買えないことを理解できなかったにも関わらず,一瞬で理解し「買えないこと」に納得できたのです。
どうしてもゲームが欲しかったので5千円のゲームを見つけて,「5千円だから,千円札が5枚。これなら買える」と嬉しそうでした。持っているお金の単位である千円札をもとに考えさせたことで,具体的に金額の違いを理解することができたのです。
大人には1万1千円と3万円の違いは明確に把握できますが,子どもにとっては,その違いを具体的に認識することは難しいのです。子どもの思考力を育てるには「子どもの目線で考える」意識をもつことです。と言っても「何が子どもの目線にあたるのか」に気がつかないのが現状で,ここが課題だと考えます。
子どもが具体的に思い浮かべることのできる単位,できるだけ持ち物など身近な実物に近いものを単位として用いることが重要なのです。ここでは千円札が「その単位」です。入門期の指導では,教科に関わらず具体物を使った指導が多くおこなわれる理由がわかります。入門期の子どもは,抽象的な思考はできないのです。
入門期。「子どもの目線で考える」を意識して指導に取り組みましょう。
お金との関連から最近考えていることです。
近年経済について学習する学校が増えてきていると聞きました。生きる上で食事と経済は生きるための二本柱と言っても過言ではありません。幸いなことに,食事については「食べることは生きること」「あなたの体は食べたものでできている」などの言葉が一般的になっているほど,認識が高まっているのでよいことだと歓迎しています。
一方経済については,まだまだそれを「学ぶ」ということは限られているように感じます。小学校では家庭科の学習で少しふれますが,他教科の学習との関連や将来の生き方にまで及ぶ学習は多くありません。
しかし,これまでもこれからも,経済は生きる基盤にもなるものです。私が子どもの頃は,お金の話をするのは品がないなどと言われ,極力ふれないできたように感じます。もう少し学んでおいたらと思うことしきりです。
お金は,子どもにとって身近で,しかも実感しやすい単位です。計算問題でもお金に換算して支援すると「あっそうか」と,すぐに理解できます。1円玉,10円玉など一つ一つの単位が身近で実感しやすく,考えやすい。さらに十倍ずつ増えていく単位同士の関連も把握しやすいのです。
教材としての扱いだけでなく,お金をどのように使うのかを考えさせる学びも必要だと考えています。
2年生のお子さんの例です。ひっ算を学んだことから数字への関心を広げ,お小遣い帳を自作してお年玉の収支をきっちり記入。それを楽しんでいました。記載は具体的で細かく書かれ,使うだけでなく貯金もしていました。お母さまから「お金は大切なもの。大事に必要なことにだけ使うこと」と教えられたとのことでした。
「生きたお金の使い方」ついて考えさせることも大切です。使うだけでなく,貯金するなど,目的にあったお金のあり方や自分の生活に見合うお金の使い方について考える「生きたお金の使い方の実践力」をつけることが,自分で生きる力「自立」できる人を育てることにつながると考えます。
大人になってからではなく,学習を始めた低学年のうちから,経済についての学びを始めることの重要性を感じています。