防災訓練をしていますが,今ひとつ真剣さが伝わりません。どのような指導が必要ですか。
【答え】
行動の一つ一つには意味があります。その理由「なぜ」を説明しましょう。
理解する力も心もあります。理由がわかれば正しい行動を進んで取るようになります。
【なぜ】
防災などへの危機意識をもつことは大人にも難しいことです。体験していないことを想像するのですから,いかに大切なことであるのかその行動のもつ意味を丁寧に指導することが重要な鍵になります。
9月の防災訓練でのことです。不審者侵入の訓練が警察との協働で行われました。不審者が来たときに,どのように自分たちの命を守るのかがねらいです。
不審者役の警察の方が姿を見せると,私は廊下へ出て子どもたちに教室の扉を閉めるよう手で合図しました。事前に決めておいた約束です。不審者役の方は教室の壁を乱暴にたたく,蹴るなど大きな音で子どもたちを脅かします。子どもたちが静かなのでさらに壁を強くたたき,怒鳴り声もあげますが室内は静まり返っています。もちろん40名近くの子どもたちは室内にいます。事前に指導しておいたことができるか気になりました。しかし,何よりどんなに怖がっているか心配でした。私は学年の先生方と協力して対応し,打ち合わせ通りに職員室への誘導をして訓練を終えました。
教室へ戻ると事前に指導した通り子どもたちは,ベランダから隣の教室へ避難していました。しかし,席を立つときの椅子の音も声も,移動するときの足音さえも全く聞こえませんでした。「よく頑張りましたね。どうして音を出さないでできたの?」と聞くと「誰もいなければ,入って来ないって先生が言ったから」と。子どもたちは理由を聞いていたため,音も声も出さない行動ができたのです。
一年生がこんなに静かに避難していたことを実感され,警察の方々や訓練を視察していた地域の方々も驚いていらっしゃいました。特に警察の方からは「たくさんの学校で訓練をしていますが,こんなに声も音も出さずに子どもたちが避難できるなんて初めてです。」と,不思議そうにおっしゃいました。
子どもは理由がわかれば必要な行動ができるのです。子どもには理解する力も頑張ろうとする心もあります。
【方法】
事前に行動の理由をきちんと説明することが重要です。
次のことを子どもたちに指導しました。
- 訓練は「自分たちの命を守るための訓練」です。命は一つ,自分で守れるように練習します。
- 教室の中に誰もいなければ,不審者は入ってきません。誰もいないとは.声や音がしないことです。椅子の音や歩く音。どんなに怖くても絶対に声を出さないこと。声や音がしなければ誰もいないと思い,入ってはきません。
- より安全に身を守るために,教室から避難します。
隣のクラスの先生がベランダから迎えに来ます。絶対に声や音をさせないで逃げなさい。 - どんなことがあっても先生は大丈夫。
廊下に出て一人で対応している担任を子どもたちは案じています。「大丈夫」と安心させ,自分たちの行動だけに集中できるようにします。
それぞれの項目の語尾を注目してください。子どもたちに指導する時は,危機意識など指導の意図がより伝わるよう「語尾を工夫」することが重要です。