☆コラム 具体操作の大切さを重視するということ
低学年の子どもは,対象とする人や物を自分と同化するなど,具体的なものをイメージして,そこから思考を広げます。その過程は,まず見る,触る,においをかぐ,など自分の身体を通して対象物を感じ取ります。これは発達段階としての自然な姿です。したがって学習においてこのような思考過程を意識して低学年の指導に取り組むことが重要なのです。
例えば,算数の足し算を例に二つの思考を考えます。
Aの問題
鉛筆が3本あります。5本もらいました。全部で何本ですか。
この問題は順次思考で,子どもの思考の流れに沿っています。したがって1年生でも簡単な具体操作で思考が可能です。2年生ぐらいになると,具体操作を通さなくても半抽象でも解決方法を考えることができるようになってきます。
ところが,次のような問題の場合はどうでしょう。
Bの問題
鉛筆が何本かあります。そこから5本使ったら,残りは3本でした。鉛筆は最初に何本ありましたか。
この問題は全体量が未定なため,思考は逆になり,思考の混乱を招くことがあります。実態にもよりますが,学級の半数近くの子どもは「?」と首をかしげます。道筋が見えないため,立ち止まってしまったり,わからないからと考えるのをやめてしまったり,だから算数は嫌いと算数嫌いになってしまったり...。思わぬ方向に進んでしまうこともあります。
なぜなら,子どもの思考は順番に物事を考えていく順次思考。しかし,この問題は使った量や残った量から全体量を求める逆思考です。この思考過程は子どもにとって自分の思考とは逆になり,問題の内容を思い浮かべることは難しいのです。
低学年の子どもは同じ抽象的でもファンタジーの世界は得意ですが,見えない全体量から5本使い,残りの3本を思い浮かべるなど抽象的な空間で思考を具体化することはできないのです。
したがって,低学年の学習では具体操作,半具体,半抽象と段階を踏んで進めていくことが,考える力やできる喜びを実感させるために重要なことなのです。