☆コラム 子どもの覚える力が低下していることに気付いていますか。
覚えるのに時間がかかる,時間をかけても覚えられないなんてことがありませんか。
新出漢字だけでなく既習の漢字まで,つい最近の学習にも関わらず,「覚えていない?」。私が気付いたのは,平成17年3年生を担任したときですから,かなりの時間が経過していますが,多くの先生方から同じような声が届いています。そこで最近の事例を基に,子どもの実態の見取りや指導の在り方を考えます。
【音楽科における3年生の事例】
「山のポルカ」をリコーダーで演奏する学習です。その中の「ソドシラソ」のフレーズ。一度に「ソドシラソ」と演奏しようとしてもできるようになりません。もちろん一音ずつ,運指は既習,何度か練習もしています。しかし既習にもかかわらず,「ソドシラソ」と5音をつなげて吹こうとすると,できない子どもが多い。何度も繰り返し練習します。しかしなかなかできるようになりません。できるようになる前に意欲が低下してしまいそうです。以前は数回練習すると運指でつまずくことはありませんでした。タンギングに気をつけて演奏する課題で取り組んできていたのです。しかし,最近はまず指使いが覚えられずここで時間がかなり必要になっています。
そこでこの実態を踏まえ,今までの指導を見直すことが重要だと考え,次のように指導の改善を図ってみました。
改善は二つ。
一つは,歌うことです。えっと思われる方もいらっしゃるかもしれません。「楽器で歌う」という言葉があるように,音楽の基はすべて「歌」なのです。
もう一つは,「できた」が実感できるよう五つの音を「分解して」指導する方法です。ソド⇒ソドシ⇒ソドシラ⇒ソドシラソ と,段階を踏むことで必ずできるようになります。
ではなぜ「歌うこと」と「段階を踏むこと」が必要なのでしょうか。子どもの発達段階における学習の獲得の仕方を考えてみましょう。
まず「歌うこと」の意味について考えます。
楽器を演奏するとは「楽器で歌う」という言葉があるように,楽器での演奏がまるで歌っているように聞こえてくることが楽器を演奏するということです。
運指だけを練習すれば「リコ―ダーが吹けた」と考えていませんか。まず歌えるようにしておくことで,リコーダーが演奏できるようになるのです。単に音がでる「吹く」とは全く違うことに子どもたちもすぐ気づきます。歌ってみるとその楽曲のことがわかってきます。音の流れとして旋律を自然に感じ取ることができます。ですから,歌うことを指導して楽器の演奏に取り組むと旋律が頭に入っているので演奏しやすく,音色やフレーズのまとまりにも曲想の表現にも気づくため,歌う指導をしないときと比べ演奏全体に大きく「差」が出てきます。もちろんこの差を子どもたちは感じ取って,感想交流にも具体的なつぶやきが生まれてきます。「歌うこと」には大きな意味があるのです。
次に「段階を踏むこと」の重要性について考えます。
二つのことを同時にできないのが,低学年の特徴と考えられていますが,最近では学年に関わらず同様のことが見取れます。社会の変化同様子どもたちの置かれている環境も大きく変化し,そのことにより子どもの力が十分ついてきていないのではないかと案じています。
したがって,リコーダーの学習でも複数のハードルを同時に越えることが難しくなっているため,できるようになるのに時間がかかっているのではと考えるのです。
3年生のリコーダー演奏に関わるハードルは,階名を知ること,指使いを知ること,階名を覚えて指使いと連動させること,さらに高音,低音にふさわしいタンギングを工夫することなどです。もちろん,ここに楽曲を知ることも入ります。歌と比べるとハードルの数が多く,しかもどの内容も身近な生活にはない,日ごろなじみのない内容です。理解するにもできるようになるにも時間がかかります。練習が必須です。ですから「できる」を実感するためには,段階を踏むことが重要なのです。
このように,一つずつ段階を踏み「できる」を実感しながら,次の段階に進む,指導の工夫が必要なのです。
では,具体的な指導の流れに入る前に,歌うことを運指との関連で考えます。
まずは階名で歌えることだけをします。階名を歌うときは脳で考えますから脳が階名を覚えることで,次の運指に進んだ時,階名はすでに覚えているので,脳は指使いだけに集中できてスムーズに演奏できるようになります。
逆でもいいのでは,との声も聴けます。これがだめなのです。指は脳によって動かされているのです。運指の時に指の動かし方に脳が使われていますから,階名にまで脳が働いてくれません。一度に二つのハードルを越えなければならなくなるのです。ですからこの順番で,この段階を踏むことが,指導の重要なポイントなのです。指を動かす前に脳を使う。まず「考えること」が「はじめ」なのです。
具体的な指導の流れは次のようになります。
まずは楽曲全体を階名で歌えるようになったら,次に演奏できない部分,例えば「ソドシラソ」を分解して,階名で歌いながら,運指だけに取り組みます。ソドソドと歌いながら,歌に合わせて指を動かします。実態に即して分解を続け,できるようになってきたら「ソドシラソ」と歌に合わせて指を動かせるようにします。この活動で大切なポイントは,運指だけに集中できるようにすることです。リコーダーの吹き口を胸に当てるなどします。
ここまでの内容をそれぞれ5回続けてできたら次に進みます。途中で間違えたら,最初の1回からやり直します。そして,ここでようやくリコーダーを唇に載せ,音を出します。これも5回続けられるまで練習します。このように段階を踏むこと,小さい単位に分解すること,そして回数を決めて繰り返し練習することが大切なポイントなのです。
さらに重要なことがあります。それはこの練習は,全員が「できた」を実感できるように,全体で取り組むことです。先生の合図のもと「はい,ソドソド」など簡単な単位で取り組みます。なぜなら,子どもによりできないところは違いがあります。しかし,できないことを一人で繰り返し練習することは,難しいと思いませんか。一人ずつ個人での練習にすると,関心が高い子どもとそうでない子どもとの練習量には大きな違いが出ますね。これでは意味がありません。ですから,まずはみんなで取り組むことが指導ポイントなのです。全員で取り組むと間違っても目立つことなく安心して練習できます。友達と一緒なら繰り返し練習することもできます。全員での練習を通じて「できた」が実感できれば子どもは次への意欲をもち,次からはひとりでも練習するようになるのです。
このように変化の著しい現代,子どもの実態を適切に見とり,指導の工夫をして資質・能力の育成に力を尽くしたいと考えます。