保護者の方から子どもの「しつけ」についての相談がありました。どのように応えてよいかがわかりません。
【答え】
「しつけ」の意味を共に考えます。できていないことは気付いたときに取り戻す,入門期はその適期と考えます。
【なぜ】
まず「しつけ」の意味を考えましょう。
「しつけ」は子どもが社会生活を送るために必要であり,自分を成長させる重要な内容です。単にルールを押し付けたり教え込んだりするものではありません。
「しつけ」とは他者と共に生き,幸せになるために重要,不可欠な内容なのです。
なぜなら,自分が心地よいと感じるとき,それは自分だけの力や努力だけで,手に入れられるわけではありません。そこには必ず,人によって心や力が働いています。このことに気付かせることが「しつけ」の基盤と考えるのです。人がいることのよさと大切さを感じ取らせ,他者を受け入れることの重要性を教えることなのです。
そして,しつける際のポイントは「誰のために」「何をするか」を教え,導くことです。「相手意識」「目的意識」が重要なのです。
したがって他者と主に生きるためには,何をするのか,その役割について教えることが必要です。その一つは,自分のことは自分でする,できるようにすることです。このことは一見自分のことだけできればよいのかとみられがちですが,よく考えると自分のことが自分でできるということは,他者に迷惑をかけないことに繋がっているのです。迷惑をかけないということは,共に気持ちよく生活できるということです。そのために何ができるようになることが大切か,それが「しつけ」と言えるでしょう。
さらに「しつけ」の時期について考えます。
しつけることができるのは,発達段階から考え,自我の目覚める前までと考えます。小学校2年生の夏休みぐらいまででしょう。この時期の決め方は成長により違いがあるのは当然ですが,現代はその成長が一人一人で著しく違うように感じています。したがって時期としては,大体2年生と大きなくくりで捉えています。
ではなぜこの時期までなのでしょうか。それは子どもが他者を受け入れることができるのは,自我が目覚める前までだからです。自我が目覚めると,自分の思いやこだわりが強くなります。自分が正しい,自分にとって心地よく楽であるという自分を一番大切に思う気持ちが育ってくるのです。わがままとは違います。それだけ自分への思いを強く感じ,自分が思うことの通りに行動してみたいなどと思うからです。
これは成長の一面ですから喜ばしいことですが,その反面他を受け入れにくい,受け入れたくない時期になってくるのです。「しつけ」はできるだけ早く幼児期にと言われるのはその意味からです。しかし,小学校に入学する年齢になってもさまざまな状況により,「しつけ」ができていない場合も多々あります。
入門期は学校という学習の場や友達,新しい世界への憧れが生まれるときです。幼児期にできなかった,うまくいかなかった場合は,小学校への入門期が一番適切です。なぜなら,一年生は一生で一番学校へ行きたい,学習したいという意欲が高いときだからです。新しいことを知りたい,できるようになりたいという意欲にあふれているときなのです。ですから新しいことを学ぶ機会として「しつけ」の適期と言えます。
経験値からの知見ですが,この時期を逃すと「しつけること」は年々難しくなっていきます。
【方法】
「しつけ」とはどのようなことかを保護者の方とよく話し合いましょう。なぜなら「しつけ」とは親のいうことをきかせることと思い込んでいる方もみられるからです。
保護者の方の考えや思いをまずは黙って聞き受け止めましょう。共感できるところや同感できることがあります。どのような話も子どもを思っての親心ととらえましょう。親のいうことをきかないなど,一見悪口に聴こえる話も出てきますが,そこで同感しないことです。子どもは保護者の方からお預かりしているのです。他人から自分の子どもの悪いところを指摘され嬉しいはずがありません。そして,できないことや不十分なところがあるのが子どもです。
さらに気をつけたいことは,保護者の方を指導しようと思わないことです。保護者の方は,大人です。その尊厳を忘れ,教師として向き合ってはすれ違うばかりです。保護者の方は自己を否定されたと感じ,さまざまな問題が生まれてしまうからです。
共に考えるというあたたかい心と意識をもち,信頼される教師として向き合いましょう。
*「躾」と漢字で表記すると「強いる感覚」があり,ここでの意味を考え「しつけ」と「ひらがな表記」しています(入門期にこそ教えておきたい具体的な内容は,既述の項も参考にしてください)。