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第1回 普通が一番難しい

 私は大学の教員で,作家で,三児の母です。真ん中の次男は,3歳の時に「自閉スペクトラム障害」と診断されました。中度の知的障害があります。学者としての専門は心理学ですが,教員としては「国際コミュニケーション学部 表現文化学科」というところで,創作をメインに教えています。

 学部名からも察することができるかと思いますが,留学する学生も多くいます。彼女たち(女子大なので)の経験を聞いていると,次男は生まれてからずっと,言葉も習慣もよくわからない異国にいるようなものではないかと思います。留学した子たちは,そのうち自然に言葉を覚え,その土地の習慣にも馴染んでいくのですが,厄介なことに息子の言葉を学習する機能はうまく作動しておらず,ずっと,片言レベルという状態にあるのです。これは,言語に限らず,発達障害の特徴全般に言えることではないでしょうか。

 こう考えると,発達障害の子どもとのつき合いは,かなり楽になります。この子はこういった方面の把握が難しい,と感じたら,日本語がよくわからない,日本の常識が通じない外国人に,自分はどのように接するかな,とイメージしてみましょう。例えば,抽象的な単語は使わず,具体的に説明するだけで,コミュニケーションが驚くほどすんなりいくこともあります。

 次男は,この四月から社会人になりました。職を得るにあたって,履歴書を提出したり,面接に臨んだりします。障害者としての雇用ですので,担当の方も彼の事情についてはある程度,ご承知くださっていますが,社会に出る一歩目で,そこに甘え過ぎるのは潔くない気がします。だから,できるだけ頑張ろうという気概は空回りしがちなもので。

 履歴書で問題なのは顔写真です。今まで,名古屋市からいただく愛護手帳やパスポートの写真は,普段着でしたが,ここはしっかり制服で撮りましょう。街角の証明写真機に行きますが,いつもどきどきです。一人で入って撮れるようにはなったのですが,本当にちゃんと撮れているかしら。失敗したら,一回九百円ですから,結構痛い出費です。緊張した真面目すぎる顔は「そんな怖い顔はしないで」,笑い上戸だから「笑わないで」。これは,いけない指示の出し方です。「しないで」では一つの可能性を潰しただけで道が無数に残るので,「して」で一つに限定するのが望ましい。じゃ,どんな限定をしますか。
「普通にして」
「普通はなんですか」
 予想通りの返事をありがとう。
 彼らに「普通」を理解してもらうのは難しいものです。だって,普通じゃないんだもの。

 普通じゃない,常識が通じない,でも彼らに悪意はない,ということを,まず理解してください。そんな彼らと,どのようにつき合えばいいか,具体的に考えていきましょう。

堀田あけみ先生
堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障害児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数

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