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第2回 心と言葉を整理整頓する

 発達障害の子どもの「普通ではない」ところ,まずは言葉を考えてみましょう。通常の学級に在籍している場合,知的な障害はないと考えられますから,「普通に話している」でしょう。でも,だからと言って「普通にわかっている」とは限らないのです。

 私たちの「普通の理解」には,慣用句を習得したり,行間を読んだり,裏の意味をすくい取ったりすることまで含んでいます。そういった理解が苦手でも,彼らは普通に言葉を発信できてしまうので,本人も周囲も,「わかっていない」ことに気づきにくいのです。

 例えば,「万葉集」の一節,「秋の風吹く」に込められた情感は何かと問われたら,「物寂しさ」との答えが一般的には出てきます。「何も感じない,というか,感じるわけがない,だって風が吹いているだけじゃないですか」と答えたら,まちがいになります。以前にこのようなやり取りで,ふざけるんじゃない,と叱られたことがあります。でも,本人は大真面目なのです。「風が吹く」には感情なんか含まれてない,という意見のどこがまちがっているのでしょう。

 多かれ少なかれ,彼らの「わかり方」は違うのです。「万葉集」の例は,「わかってそうだけどわからないから困る」例ですが,「いかにもわかってなさそう」な場合にも,一般的な「わかっていない」とは違うことがあります。

 子どもに声をかけて,反応がなかったら,どうしますか。多くの場合は声を大きくするか,ゆっくり話します。声を大きくゆっくり話しても,はかばかしい反応がなかったら,無視されていると感じます。つまり,相手が悪意を持っていると感じるのですね。でも,悪いのは,こちらの言い方かもしれません。それを変えたら通じる可能性はあるのです。

 注意欠陥障害の子どもは,整理整頓ができなかったり,後から読めないようなノートの書き方をしたりします。それに対して,「きちんと」「丁寧に」といった抽象的な言葉で指導しても,伝わらないことが多いのです。そんなとき,「失くすといけないものは,決まった場所に置く」あるいは「文字に角をつける」「字を同じ大きさにする」といった具体的な言葉に変えてみましょう。

 情報を小出しにして伝えることも重要です。
以前,療育のグループで,ホワイトボードにメンバーの名前を書いて,
「自分の名前のところに丸をつけましょう」
 と指示を出したことがありました。きょとんとして何もしない子どもには,こんなふうに言います。
「自分の名前がどこにあるかわかる?」「そう,そこにあるね。そのお隣に四角があるよね」「四角の中に丸を書いて」
 大人の常識で見ると,これ以上,分解できないような,ごくごく普通のシンプルな表現でも,彼らにとっては複雑なものだということもあるのです。そんなときには,情報を細分化し,整理整頓した上で,具体的に提示しましょう。これには大人の力量も問われます。

 誰でも意外と散らばっている心と言葉を,整理整頓する良いきっかけにもなりますよ。

堀田あけみ先生
堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障害児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数


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