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第3回 好きだけど触れないで

 発達障害は※メンタルな問題とされがちですが,※フィジカルな面でも日常生活に大きな影響を及ぼしています。感覚の過敏・過鈍も珍しいことではありません。

 私の息子は聴覚が過敏です。一定の音に強い不快感を持ちます。その対象は,泣く,怒る等,マイナスの感情を伴った人の声です。幼児期には,相手が誰であろうと声の発信源に対して攻撃的な姿勢を取るので,気が抜けませんでした。赤ちゃんが泣いたら叩く,知らないおじさんが怒鳴ったら蹴る。親は,その行動を予測して防がなければなりません。今は,「赤ちゃん,泣いてますね」「おじさん,怒ってますね」と言うくらいですが,言語化して言葉を発するということは,気持ちは穏やかではないのでしょう。

 不快感を持つ対象は声だけではありません。音が苦手な場合も多く,電車の音が嫌いで乗れないから,移動は全て車だったり,トイレに入っていたら,いきなり換気扇が稼働しだして,パニックになったりします。人の声や警報音,つまりは必要な音を集中的に拾うタイプのヘッドホンがありますが,性能の良いものは値段も高いものです。パニックになると,地面に叩きつけて壊したりする可能性もあるので,使うことをためらいます。

 感覚の過敏は,聴覚だけに現れるわけではありません。触覚も過敏な場合は,耳に物が当たるのを嫌がるので,ヘッドホンも使えません。雨や風を「痛い」と感じて外に出るのを嫌がることもあります。裸足で歩くのが不快だからと,プールに入れなかったなど,どれも,「わがまま」と思われそうなことばかりです。

 中でも,一番大きな問題は,人に触れられるのが嫌だ,という触覚の過敏ではないでしょうか。頭を撫でられたり,手を繋がれたりすると,勢いよく振り払います。相手を選ばないので,傍から見るとお母さんが子どもに嫌われていると思われるかもしれません。普通は,嫌いな人にすることですものね。

 でも,思い出してください。普通じゃないのです。

 たとえ好きな人でも,触ってほしくない。そこをわかってあげてください。先生には,そのことを子ども同士で共有できるように,伝える役割もお願いしたいと切に思います。

 感覚の鈍い例の話をすると,息子は痛覚が鈍いようで,知らないうちに怪我をしていたことがあります。冬のカナダで凍傷になったこともありました。一番ひどかったのは,頭部の大出血で5針ほど縫ったことです。血まみれなのに,本人は平然としています。どこでどうしてそんな傷を負ったのか,全く覚えていないのです。

 過鈍は,過敏のように他人に迷惑をかけたり,不快な思いをさせたりすることがあまりない分,気付きにくいのですが,怪我や危険を見過ごす, 助けを求めることができないという点で,大きな問題です。発達障害の子どもがいたら,感覚に過敏や過鈍がないか,気を配ってほしいと思います。

※メンタル=精神的,※フィジカル=身体的

堀田あけみ先生
堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障がい児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数


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