第12回 あなたが大好き
誰が何と言っても,私は「褒めて伸ばす」派です。私は褒められるのが好きだから,他人も褒めます。但し,嘘は吐きません。
もちろん,叱らなければいけないときは叱ります。ゼミ生を厳しく注意することもあります。そうすると「堀田先生が怒るって相当だ」と,言われている本人も周囲も思うので,きちんと耳を傾けてもらえます。
発達障害の傾向があって,通常学級に在籍していると,なかなか褒めてもらえません。むしろ,先生から注意を受けたり,友達から責められたりする場面が目立つかと思います。反論することが苦手で,それが原因のパニックに陥ることも多いので,子ども達の間でもめごとがあった場合には,まず,落ち着かせることが最優先です。
人間関係を構築するのが苦手で,好意を伝えるのが上手くない子どもがいます。それに,他人との接触や,大きな声が苦痛だというのが加わる場合もあります。本人にとっては,他者への好悪と感覚の過敏は別問題ですが,普通「触らないで」「うるさい」と言われたら,嫌われていると思いますよね。
好意を伝えられないのは,伝え方がわからないからなのです。だって,自分が伝えてもらっていないのですから。だから先生がお手本を見せてあげてください。彼らを好きになって,「好きだ」と表現して欲しいのです。
冒頭で,「嘘は吐かない」と言いました。どうしても好きになれないなら無理はやめましょう。好きだと嘘を吐いても良いことはありません。子どもと教師でも相性が合わないことはあります。でも,「合わないんだ」,と思う前に試して欲しいのです。私が今までお伝えしてきたことを振り返って,彼らの行動にいかに悪意が含まれていないか,を検証してください。それでも,好きになれませんか。
以前,自分の感情を表す単語は「辛い」のだと,十歳にして気付いた少年のお話をしました。それを言うなら,彼を取り巻く大人はみんな「辛い」のです。親も教師も,この子どもが何を考えているのかわからず,自分の言っていることを理解してくれているのかも定かではなくて。でも,いつだって一番辛いのは本人です。たとえ,そうは見えなくても。
私は,こういった子ども達と向き合うときには,二つの視点が必要だと思っています。将来を見る目と,現在を見る目です。将来のための力の養成に熱心になるあまり,やるべきことだらけの辛い現在にしてはいけないのです。私は,特に幼児に対するときは,一日に必ず一回は,大笑いできる時間を作るように心がけています。笑いながら「あなたが大好き」だと伝えます。
そして,今,これを読んでくださっている,あなたのことも大好きです。
教室で生き辛さを抱えた子どもと,しっかり向き合おうと思うから,ここにいらしたのですよね。どうか,このような子ども達を好きになってください。そして,そんなご自身のことも好きでいてください。
堀田 あけみ
1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障がい児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。
◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数