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第11回  ここにいてもいいよ

 「居場所」というと,精神的な拠り所という意味にとられがちですが,物理的なものこそ重要です。そういった居場所の確保という点で,私の勤務先はかなり良くできているのではないかと思っています。

 非常勤で行く大学も,息子の通う大学も,大学の構造自体が全学部で動いているのですが,うちの大学は学部棟が独立しています。それぞれの学部棟に,事務室や学生用の研究室,大きな控え室等を備えていて,教員の研究室も身近にあります。学生が誰かに頼りたいときには,教職員が必ず近くにいますし,階段の下の空いたスペースには,ちょこっとベンチがあったりして,一人になりたいときには便利です。

 学校に行きたくない,とまでは思わないけれど,ずっと教室にいると辛い,と感じる学生はいます。教室に自分の席が指定されていない大学では,「いなければいけない」プレッシャーから,席が指定されていない自由がある代わりに,「いてもいい」場所の確保も難しくなるので,それなりの配慮が必要になるのです。

 「保健室登校」というと,良い印象はないようです。逃げ場所になってしまうとか,特定の子どもと養護教員が親しくなるのが望ましくないとか(この場合,「担任よりも親しくなる」のが良くないという意味もあります)の理由からです。しかし,保健室が「居場所」になるのは,子どもにとって救いです。

 通級がある場合には,そちらも利用できる可能性があります。一時限分,教室から離れることで,リフレッシュして教室に戻って行けます。わが家の長男がそうでした。幸運なことに,名古屋市が初めて通級を導入した学区に,私たちは住んでいたのです。長男は小学三年生でした。

 ただ,「可能性」という言い方に留めたのには,理由があります。通級に対するニーズも随分増えていますから,「その程度」のことには対応できないかもしれないからです。今だったら,わが家のケースでも断られたかもしれません。

 それ以外の工夫をされている先生も沢山いらっしゃいます。パーテーションを使って,集中したいときには一人のスペースを確保してあげたり,パニックになったときに行ける場所をあらかじめ作っておいてあげたり。以前,NPOで発達障害児のためのお料理教室を開いていましたが,そこでも調子が悪くなったときにクールダウンするためのスペースを,いつも確保していました。ただ,一度だけ,会場の都合でそのスペースが確保できなかったことがあり,そういうときに限って,大きな波が来てしまったこともありました。

 「君はここにいていいよ」という 物理的な居場所があることで,精神的な余裕も生まれるのです。

 「いてもいい」という曖昧な言い方に疑問を呈されることもありますが,私としては,これが良いと思います。もっと強い言い方だと,負担になってしまうかもしれないので・・・



堀田あけみ先生

堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障がい児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数

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