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第6回 障害児の親になる

 教育者であれば,子どもの親御さんとのお付き合いは避けて通れません。成長して大学生になっても,親御さんの影が見え隠れすることが多いと感じます。個人的な見解ですが,教師に向かないと思える学生が,教職課程を履修しているケースでは,親御さんの意向が働いていることがほとんどです。

 私も親です。長男には持病があり,次男には障害があります。さらに,長女には先生とうまくいかない時期がありました。周囲のお話を聞いていると,我が家の子どもたちは良い先生に恵まれて(特に次男は幼稚園から特別支援学校高等部までは〈良い先生〉に,就労後は<良い上司>に恵まれた幸福な障害児です)きたものだと実感しますが,全てが順調とは行きません。私も「モンスターペアレント」になりたくないので,意思の疎通には,脳細胞が擦り切れるほど気を遣います。

 発達障害は遺伝性疾患ですので,親御さんともコミュニケーションが取りづらいケースがあるかもしれません。でも,一つだけどうしても知っておいてほしいことがあります。

 発達障害は出生時にはわかりません。健康な子どもに恵まれて一安心,と思ったところに,何かを感じ,不安の中で診断を受けます。発達障害児の親は,「普通の親」から「障害児の親」へ,というシフトチェンジを行わなければいけないのだと私は思います。そして,それは第三者から理性的に見ていては,想像できない葛藤をもたらします。

 あるお母さんは,診断後の夫の言葉に立腹したといいます。私が聞く分には,父としての素晴らしい見解を表したものでしたのに。
「これが障害ならあってもいい」
 障害を受け入れることも,子どもへの愛情が変わりないことも,一言で言い表せる,素敵な言葉です。なぜ,お母さんはこれがいけないというのでしょうか。
「あっていい障害なんかない。これから,自閉症であるがゆえに,この子も家族もたくさん苦労するのに。そのことが,パパには何もわかっていない」
 もともとお父さんの育児参加が少なかったこととも関係するかもしれません。

 こんなお母さんもいます。小学校に入ってから診断が出たので,担任の先生にお知らせしました。すると,
「でも,私はこれからも,今まで通りに接して行きますから」
 担任の先生は,偏見を持ったり,差別をしたりすることはないとおっしゃりたかったのでしょう。でも,お母さんは抗議しました。「今まで通りではいけないから,覚悟を決めて相談にきたのに,どうして変わってくれないのですか」

 私にはわかっています,夫や先生の気持ち。でも,そうじゃないよって,思うのです。

 特に,障害児の診断を受けた小学生の場合,その子どもの親御さんも「障害児の親」になったばかりです。親として,腹をくくるまで,少し待ってあげてください。モンスターだなんて言わずに。

堀田あけみ先生

堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障がい児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数


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