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第7回 いちいち説明してください

「これはいい,これは駄目っていちいち言わなきゃわからないの,あなた達は!」
 これは,私が二十代の頃に書いたジュニア小説(今はライトノベルと言いますね)の中で,常識のある部長が,問題児の部員に向かって言った台詞です。教員や親の立場にいると,誰もが口にしたことがあるのではないでしょうか。少なくとも,言いたくなったことは一度や二度ではないでしょう。

 そして,その発言の真意は「わかっている」とか「わからない」という答えを待っている訳ではなく,「自分で考えて常識的な判断をしなさいよ」ということなのです。私自身,自分の子ども達に対しては「同じことを二度言わすな」と,しょっちゅう宣告しています。

 でも,いちいち言わなければいけない人もいるのです。それは,本人が改めようという努力を怠っているのではなくて,理解して行動に反映させる枠組み(心理学の授業で「スキーマ」という概念を学ばれた方は,そちらだと思って下さい)を持っていないのです。

 経験上,発達障害は何らかの学習障害である,とすると得心がいきます。彼は,彼女はどの分野の学習が苦手だから,このような生き辛さを抱えてしまうのだろうか。教育の現場にいると,学習,即ち勉強という発想になりがちですが,もちろん,ここでは何かを習得することにより,行動に変容を来すこと全般を指します。

 人は本来,本能的に学習をするものです。人から教えられなくても,人と接する経験を重ねていく中で,思っても口に出してはいけないことがあると学習します。小さい子どもでも,自分の好きなテレビ番組が何曜日の何時から放送される,ということは,自然に憶えていきます。が,それができない子どももいるということです。けっして,しないのではなく。

 何度いってもわかってくれなければ,入力の仕方を変えてみては,どうでしょう。口で言ってわからなければ,文字で書いてみる。言葉での理解が今ひとつであれば,図にしてみる。聴覚入力を視覚入力に切り換えることで,理解度が大きく増すケースがあります。

 理解のフォーマットがないことを想定して,根気よく接することで,ストレスは解消とは行かなくても軽減されるものです。

 私は長男を十回言わなければわからない子どもだと考えているので,十回くらいまでは根気よく待てます。長女は,一を聞いたら,十を悟りますから,「言わなくてもわかってる」が彼女の口癖です。次男は,場合によっては百回言ってもわかりません。でも,百一回目にわかるかもしれません。千回目かもしれません。ずっとわからないかもしれません。可能性がある限り,繰り返します。親だから。

 想定するということは,きわめて有効です。私は火曜日には早く出勤すると十年前から決めていますが,夫はそのことをしばしば忘れ,曜日構わず「コーヒー入れて」といってきます。その都度,にっこり笑って,「忙しいからご自分で」と答えています。私が「夫の曜日の感覚がないこと」それを想定していなければ,毎週大喧嘩です,きっと。

堀田あけみ先生

堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障がい児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数


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