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第9回  百人百色

 発達障害は,百人いたら百通りの個性があると言われています。それって,ただの個性では?と思われるかもしれませんが,特徴的な行動が幾つもあり,その組み合わせが一人一人違うということです。

 これは,教科書通りの対処法が存在しないことになりますから,いろいろな意味で厄介です。さらに,勉強熱心な先生が落とし穴に嵌(は)まる可能性も含んでいます。次男は加配(かはい)の先生がつく保育園ではなく,長男と同じ幼稚園に通っていました。体験保育から「年少」,「年中」と同じ先生で,よく懐(なつ)いて楽しく幼稚園生活を送っていました。しかし,「年中」の秋,担任の先生が交代します。産休に入られたのです。新しい先生は,育児休暇から復帰された方でした。

 先生が産休に入られる直前のある日,私が子ども達を連れて歩いていると,背後から次男を呼ぶ声がしました。担任の先生です。たまたま,新旧の担任の先生が連れ立って,帰宅される所でした。次男は,くるりと振り向いて,ダッシュ。担任の先生の大きなお腹に抱きつきます。その様子に,新しい担任の先生はこう言いました。

「後からの声,わかるんだ」

「そりゃあ,付き合い長いもんねえ」

「そうじゃなくて,私が読んだ本には,後から声をかけちゃ駄目だって書いてあったから。それから,触られるのも嫌うって」

はい,どちらも,発達障害の典型的な特徴です。創作物でも,よく取り上げられます。でも,次男にはどちらもあてはまりません。せっかく勉強していただいたのに,それが元で混乱させてしまって,申し訳ない限りです。

 教科書通りに行かないって,だったらどうしたらいいの。

 一人一人に向き合えば良いのです。いつもしているように。普通の子どもに,特別な教科書はありません。その子がどんな子どもか,白紙の状態からゆっくりと,日常の中で探って行きますよね。それに発達障害の特徴が加わるだけです。思い込みで決めつけないことが大事です。

 発達障害の辛いところは,悪気のない行動が,そうは受け止めてもらえないケースが多いことです。例えば,触られるのが嫌いな子どもは,手をつなごうとした友達を突き飛ばすこともあります。それを粗暴だと断罪しないようにしてください。もちろん,放置はいけません。暴力はいけないとしっかり教え,謝罪も促してください。そして,周囲の子どもに,「この子は触られるのが苦手なんだ」と伝えてください。本当は,保護者の方の理解も必要ですが,そこまで行くのは難しいものです。当然,簡単なことではありません。でも,繰り返していけば,わかる日も来るかもしれません。「来ます」と断言できないことは残念ですが,そもそも子どもが育つどの段階においても,「絶対」はありません。

 人として向かい合って,相手の特徴の中から,「あ,これは発達障害の傾向だな」と発見する。そこから,対処法も見つかるのです。

加配・・・通常より多く配置すること。

堀田あけみ先生

堀田 あけみ

1964年 愛知県生まれ。
1981年,『1980アイコ十六歳』で文芸賞を受賞,文筆活動に入る。
その後,名古屋大学教育学部に入学,卒業後,同大学院教育心理学科に進学。専攻は,発達心理学・学習心理学。特に,言語の理解および産出のプロセス。
現在,椙山女学園大学教授。
また,NPO法人アスペ・エルデの会で,発達障がい児の支援も行っている。
その多方面にわたる活躍は,2012年10月から翌年の1月にかけて,朝日新聞愛知県版で40回にわたる連載で紹介された。

◆著書◆
『わかってもらえないと感じたときに読む本』『おとうさんの作り方』(海竜社)
『十歳の気持ち』(佼成出版社)
『発達障害だって大丈夫 自閉症の子を育てる幸せ』(河出書房新社)ほか多数


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