第1話 消費税の計算(1)
かずき「今日,ドキドキしちゃったよ」
--夕食のはしを止めて,まどかが聞き返す。
まどか「何があったのよ」
かずき「先生にたのまれて,学校の近くの花屋さんにチューリップを買いに行ったんだ」
--いつになく興ふん気味に話し出すかずきの様子に,テレビを見ながら食べていたお父さんとお母さんも注目しはじめる。
かずき「先生がこれで買えるだけ買ってきて,と言って1000円札をぼくに渡してくれたんだ。たまたま 下校間際でぼくしかいなかったから,一人で行ったんだよ」
まどか「なあんだ。買い物をたのまれただけじゃない」
かずき「そうなんだけどさ。でもね...,まあいいや。それでね,お店に行くと,チューリップは1本120円だったのさ。買えるだけっていうから,いくつ買えるかなって考えたんだ」
まどか「そうか,わかった。算数オンチのあなたには,計算するのがたいへんだったんだ。それでまちがえないようにって,考えてドキドキしてたんでしょ」
かずき「ひどいなあ。まあ,そう言われればそうなんだけど...。でも,ぼくも6年生だよ。1000円で120円のものがいくつ買えるかくらいはさすがにわかるよ」
お父さん「いくつなんだよ」
--お父さんはニヤニヤしながらたずねる。
かずき「1本で120円でしょ。5本なら,120円の5倍で600円。もう1本買って,合計720円。さらにもう1本で840円。まだ160円残っているでしょ。もう1本買えるはずでしょ。ぜんぶで8本で,お金は960円」
まどか「本当にかずきは!小学校6年生にもなって,きちんと計算ができないんだから」
お母さん「まどかならどうするの」
まどか「1000÷120で,答えは8とあまりが少しでしょ。8本ってすぐ出てくるじゃん」
お父さん「まどかは暗算が速いからなあ」
かずき「そう,そうなんだよ。あとで考えたら,わり算をつかえばよかったんだ,って思い出したよ。1000÷120なんて計算はいきなりできないけど,1000÷120は100÷12に等しい,って4年生の時に勉強したから,それくらいなら何とかできそうだしさ」
お父さん「ああ,そうだね」
--まどかは,もうあきれ顔。でも,かずきは大真面目。
かずき「ドキドキしたのはそれからなんだ」
お母さん「ふーん,何があったの?」
かずき「お店の人にチューリップを8本を渡したんだ」
--家族3人が目を合わせる。
かずき「ほら,消費税ってあるでしょ」
お父さん「あっ,そうかあ」
かずき「消費税って,5%でしょ。消費税が入ると1000円で足りるかなって...。960円の5%っていくらかなあって...。そんなのすぐに計算できないでしょ。学校の帰りだから,自分の財布も持っていないし,だからもし足りなかったらどうしようかって,いっしゅん思ったのさ。レジがピッ,ピッ,というたびに何だかドキドキして...」
お父さん「それは,そうだなあ」
かずき「ねえ,消費税の計算って,みんなどうしているの?」
お父さん「お父さんは,あまり考えたことないな。消費税が導入されたころは気になったけど,今はレジで言われる金額をはらっているだけで,消費税がいくらかなんてあまり気にしてなかったな」
まどか「結構そうだよね」
お父さん「計算すると,5%は100分の5のことだろ。だから,960円の100分の5,を考えるかな。960÷100=9.6。9.6×5は,ちょっと計算がたいへんだけど,えーっと,48。だから48円だ」
まどか「かずきが算数苦手なのは,お父さんゆずりね。定価に5%かかるっていうことは,1.05倍すればいいんだよ。960×1.05=1008!合計で,1008円。わたしはいつも1.05倍するの」
かずき「何で1.05倍でいいの?」
まどか「だって,5%増しのときは1.05倍すればいいって,習ったでしょ」
かずき「何でかけ算でいいの?」
まどか「何でって?」
かずき「お父さんのように,まずは5%のぶんを出して,次にそれを定価にたす,っていうやり方はよくわかるんだけど...。何で1.05倍するだけで,いっぺんに求められちゃうの」
まどか「だって...,いいの!そういうものなんだから」
かずき「それじゃ,わかんないよ」
お父さん「待て,待て。今,説明してあげるよ。お父さんのやり方を式で表すと,960+48だろ。48は960の5%ぶんだったから960÷100×5。これは,960×0.05ってことだろ」
かずき「それは学校でもやったからわかる」
お父さん「ということは,960+48=960+960×0.05,だろ」
まどか「あっ,そうか」
--かずきはまだ不思議そう。
お父さん「960×1+960×0.05=960×(1+0.05)となるだろ」
かずき「あっ,そうか。計算のきまりだね。習った,習った!」
お父さん「960×(1+0.05)=960×1.05になるじゃないか。だから,1.05倍でいいんだよ」
まどか「そう,そうなのよ!」
かずき「すごい!そうか,そうなのか。これなら1回の計算ですぐに求められちゃうから,楽だよね」
まどか「まあ,計算のおそいかずきだから,1.05倍を計算するのは,結構たいへんだろうけどね」
お母さん「お母さんはね,もっと早く計算する方法でやっているのよ」
--みんなの目がお母さんに向けられた。