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第11回「地域に根ざした学校づくりをESDにつなげたいのですが,どうしたらいいのでしょうか?」

《問い》地域に根ざした学校って,どのようなものですか?

《手島》「地域の良さを知り,それに誇りを感じられる子どもを育てる」と同時に,「地域の課題に気づきその克服に尽力する大人たちの努力や営みに共感するとともに,それを越えていくアイデアやたくましさをもった子どもたちを育成する」ことが「持続可能な社会の創り手」を育む学校教育の姿なのではないでしょうか。それこそが地域に根ざした学校であり,そのような学校づくりを未来に向けて責任をもって取り組むことが求められているのです。

《問い》「地域の良さや課題」はどうやって見つけるのですか?

《手島》「地域の良さや課題」といっても,決して特別なものを求める必要はありません。地域の特性を概観的に捉えただけでもだめです。児童・生徒や学校の実態,特に学びの実態,そして地域の実態がかみ合ったところに,その学校・学年にふさわしい地域の良さや課題が見えてくるのです。

 学びを教科等横断的に取り組むとしたら,その学年における教科・領域の学びの広がりや深まりとつながる地域の事例を考えなくてはなりません。

 例えば,小学4年生で社会科の「ごみと私たちのくらし」を出発点に学ぶのであれば,ごみの分別の仕方や収集の仕組みに対する家族や地域の人々の協力を得たり,あるいはその際に現れるさまざまな課題や解決への取り組みに関しては,子どもたちなりの問題意識をもって聞き取り調査などができます。その成果を表やグラフ,地図などにまとめ,情報を整理し,あるいは地域の清掃事務所やリサイクルセンターなどと連携して体験や見学を生かした学びづくりを進めることで,より深い理解や問題意識が育まれるかもしれません。また,自分たちの市の可燃ごみの増減の変化を見たり,先進的な取り組みを進めている他市と比較検討したりすることにより,「A市の一人当たりのごみの量が私たちの市の半分しかないのには,どんな秘密があるのだろうか?」といった新たな課題の発見につながるかもしれません。

 また,市の人口の経年変化と関連付けて,市全体の可燃ごみの量の経年変化を,予想させながら示すと,「人口が増えているのに可燃ごみ全体の量が予想したほど増えていないのはどのような理由があるのだろう。ぜひ調べてみたい。」などと,問題意識の高まりも期待できます。

 つまり,地域の良さや課題は,漫然と見ていても何も見えてきません。この単元の場合でしたら,住民一人一人の意識や努力・協力,行政による取り組み,それを支える企業や諸機関,分別収集の方法やその変化,他市との比較,経年変化,コストなどに目を向けた教師自身の「思考力・判断力・表現力」を踏まえた授業構想力があって見えてくるのです。

 このような地域の実態を踏まえた学びの中から生まれる「気づき」には,地域社会を変えていく力があります。子どもたちの気づきや思いを家庭や社会に還元していけるような場を工夫することで,学校を真の学びの場にしていくこともできるのです。

《問い》「地域の良さや課題」って,初めからわかっているわけではないのですね。

《手島》 そうですよ。伝統のある地域だと,すばらしい行事などが目につきやすく,「○○小の学区だからできるんですよね。」などと思われがちですが,どこの町でも,人が暮らしている限り,そこに工夫も努力も喜びも,そして課題もあるはずです。それを発見し,教材化し,子どもたちの深い学びに育てていくのが教師の役目です。学年ごとにその営みを重ね,共有し進化させていく中で学校としての「地域に開かれた教育課程づくり」が進むのです。

《問い》「企業や地域の人材,さらには研究者」と授業を作るには課題も多いですね。

《手島》それぞれにメリットや難しさがあります。しかし,確固たる授業論をもって相談すれば,素敵な学びが生まれます。具体的に見ていきましょう。

 地域の人材の場合,一度学習の流れを作ってしまえば,毎年,同じ学年の子どもたちが授業を通じた交流をすることも可能です。そして,学びを通じてお互いの理解も進み,指導の際の問題点も徐々に改善されていきます。ゲストティーチャーの人柄を通じて,子どもたちの地域への親しみが深まります。ただ,子どもたちにわかりにくい言葉があり,話が冗長になりがちです。学習の狙いと関連付けた話になるよう,打ち合わせをする必要もあります。また,教師が話を途中でまとめ,板書で可視化するなど,うまく補佐することで,一層素敵な授業になります。

 企業や関係機関などから講師を迎えると,学校では準備できないような実験やプレゼンを元に,わかりやすい授業を提供していただけます。最近では学習指導要領の内容を踏まえ,児童・生徒の発達段階を考慮した授業さえ見ることができます。ただ,学習過程のどの段階で外部講師をお迎えするかによって,次のような問題も生じます。

 企業の方々は,自分たちの知識やノウハウをうまく伝えようとしてくれますが,教育の専門家ではありません。つまり,上手に疑問を子どもたちにもたせたとしても,すぐに答えを教えたがる方が多くいます。活動を通じて子どもたちから,いい疑問を引き出し,問題意識を育むような授業を提供してくれるといいのですが,自分たちがもっている「答え」を示すことで,子どもたちの「学びたい意欲や問題意識」の芽を踏みつぶしかねないのです。

 このような問題を防ぐには,事前の打ち合わせが重要です。しかし,企業の場合,プレゼンを作成する部門と授業者が分業になっていて,打ち合わせをしてもそれが生かしきれない場合もあります。そのような際には,企業が自社製品や自社の開発したノウハウについて紹介する時に,「今の時点でたどり着いた私たちの答えです。しかし,他にももっと優れた方法があるかもしれませんし,それらと組み合わせることも大切な視点です。また,皆さんの学びの中からもっと優れたアイデアが生まれてくるかもしれません。期待しています。」などといった提示の仕方をしていただけるように,お願いしてみましょう。そうしないと,せっかくの授業が,企業のCSR報告のために何校・何人の子どもたちに授業提供したか,という実績の数値にされるだけになりかねません。

 科学者・研究者と協働する場合もあります。普段は大人を相手に理論やデータをもとに話す人たちです。そして,さまざまな知見をたくさんもっていますから,何でも伝えたくなりがちです。しかし子どもの発達段階によっては,資料を1つ読み取らせるにも,さまざまな工夫が必要です。1時間の授業で,納得し理解できる範囲は限られています。先日,海洋問題の専門家と海のSDGsの授業づくりをした際に,次のようなお願いをしました。

●手島からの提案とお願い●

① プレゼンを拝見した限り,子どもにとって楽しい導入にはなっていません。ワクワク感のある導入・海への憧れを掻き立てる導入にしましょう。

② せっかく「優れた科学ジャーナリスト」が来ているのですから,その「人,人生」を生かした導入にしませんか。南極の海で潜水調査もされていますよね。

③ 資料が情報過多で子どもには読み取りにくいです。一画面に4つは無理ですよ。大きくわかりやすく,提示の仕方にも工夫しましょう。

④ 1時間の中で,温暖化・酸性化という要素を2つ並べたら,子どもは混乱します。シンプル・イズ・ベスト。この時間は,海洋の温暖化の問題に焦点化しましょう。

⑤ このままでは驚きや,問題意識が湧いてきませんね。海へのあこがれの気持ちを高めておいて,それをひっくり返すような(海の温暖化による)驚愕の事実に気づかせる! そんな流れにお願いします。(単元の学習過程の中で,いちばん大事な「子どもの学ぶ心に火をつける」段階の授業でした)

⑥ 授業の「結論」として,太陽光パネルや風力発電の写真を見せて「みんなの日常のエコ活動が大事です。」なんて,だめですよ。今ある大人の答えを示して,それに取り組ませるような授業をしていては,未来を切り開く子どもに育たないと思いませんか。教え込みの授業スタイルを脱却し,子どもながらに探究したくなるような,きっかけを与える授業を提供しましょう。なぜなら,子どもたちは「答えのない世界」で,たくましく生き抜いていかなくてはならないのですから。

 このような提案を踏まえて,プレゼンは,一晩で見事なものに書き変えられました。もちろん,授業も大成功でした。

 どんな地域にも優れた専門家は暮らしているはずです。ただ,私たちが気づいていないだけなのです。「こんな授業を作りたいんだけれど,この方面の専門家っていないかなあ~。」と周りに相談していると必ずどこかから現れると思いますよ。急に言っても無理ですが,少し先を見ながらつぶやくと,ちょうど適任のかたが見つかるものです。

《問い》学校として地域に根ざした教育を進めるには,どのようなことが大切ですか?

《手島》まず,人や関係機関とのご縁を大事にすることです。それには,教師も名刺くらいは持つことや,連携の情報を必ず校内で共有することから始まります。連絡先やどのような依頼をしたのか,そして子どもたちの取り組みがどのように進んだのか,依頼状の書式やその授業用に工夫したワークシート,活動の様子,作品例などもデータとして,学年,単元名を明記したフォルダ内に残しておくことです。もし,研究授業として取り組んだのであれば,実践の成果や反省を踏まえて指導案を修正してフォルダ内に残すことが重要です。そこに学校教育の進化があるからです。

 このような一つ一つの実践の蓄積と共有を3年も続けると,学校としてのカリキュラムも充実してきます。それが日々の授業や子どもたちの成長を支え,地域に根ざした価値ある教育を進める学校づくりへの道です。

 また,子どもたちの地域における学びの成果を,子ども自身の手でプレゼンし合う学習発表会を毎年開き,保護者だけでなくお世話になった地域の方々,関係機関の方々も招いて報告する機会にすればいいのです。そのような場を作ることで児童にも教員にも発表の場ができ,それが成長の重要な機会にもなるのです。

《次回予定》
「保護者・地域に,ESDをどのように理解してもらえばいいのでしょうか?」


手島利夫先生
手島 利夫

1952年東京都生まれ。
前江東区立八名川小学校長。ユネスコスクールとしてESDカレンダーの開発・ESD推進に携わる。
 2007年以来,ESD円卓会議委員等の役職を務める。2010年第1回ユネスコスクールESD大賞を江東区立東雲小学校が受賞。2012年第3回ユネスコスクールESD大賞を江東区立八名川小学校が受賞。2014年ユネスコESD世界会合参加。2015年博報児童教育振興会より,教育活性化部門で「博報賞」個人受賞。2017年,第1回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞。2018年,日本ユネスコ国内委員会会長賞としてユネスコスクール/ESD推進功労賞を受賞。

◆著書◆
『学校発・ESDの学び』(2017年 教育出版)
共著『日本標準ブックレット 未来をつくる教育ESDのすすめ』(2008年 日本標準)

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1e-040-00@kyoiku-shuppan.co.jp

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