ホーム > 教育関連事業 > Column > 第2回 「ESDで学力は育つのですか?」ほか

第2回 「ESDで学力は育つのですか?」ほか

《問い》「ESDで学力は育つのですか? 受験は大丈夫でしょうか。」
    「基本的な知識・理解の方が大事なのではありませんか?」

《手島》 もっともなご心配です。ESDという素晴らしい教育に取り組んでいると聞いて安心していたら,受験でどうにもならなかったなんてことになったら,困りますね。

 受験で合格することを目的にESDを進めているのではありません。ESDは,持続可能な社会の創り手を育てるための教育です。基礎的な学力面でも,活用能力の面でも大きな成果が出る素晴らしい教育です。しかし,人を育てていくのですから,時間もかかります。決してお手軽な即席教育ではありません。

 各ユネスコスクールやESDの実践校では,教育の本質に向かってそれぞれが模索を続け,互いに学び合いながら,10年以上もかけて真剣に取り組みを進めたことで,ESDを日本中,そして世界へと広めてきたのです。

 その積み重ねによって,ESDの重要性と素晴らしさへの理解が広がり,学習指導要領の前文に明記されたように,日本の教育方針として全国に示されたのです。小学校では2020年,中学校では2021年から,全ての学校教育がこの方針で実施されます。

 保護者の皆さんは,『総合的な学習の時間などの学びが,他の教科や領域の学びを活かし,発展させるようなつながりをもって,進められているだろうか』(カリキュラム・マネジメントの視点),『子どもが問題意識や見通しをもって,仲間と力を合わせて夢中で学びに取り組んでいるかどうか』(主体的・対話的で深い学びの視点)を指標として,学校の取り組みを見ていきましょう。そして,「この学校は,苦しみながらも本物を目指している」と感じたら,しっかり応援してくださいね。

 今や,高校や大学の入試制度の改革もESDを踏まえたものに変わりつつあります。いずれ単なる知識の詰め込みでは通用しなくなります。しかし,残念なことに入学試験は学校ごとで傾向も出題も異なります。合格するには受験校の求めているものに対応するしかないと思います。

 次に,ESDそのものに疑問を感じている先生方もいらっしゃると思います。そういう方には,「『過去型学力』観から目覚めなさい」と言いましょう。さらに,この連載の第1回めも再読してもらいましょう。

 どのような時代でも,基本的な知識や理解は必要です。でも,そのような知識・理解はAIで代替されやすい能力です。思考力・判断力・表現力・そして実践力の不足した『過去型学力』の卒業生に,価値ある未来の職場が与えられるとは,とても考えられません。

 また,「まずは基礎・基本が大事です」と言って,いつまでたってもその先に進まない先生には,その先を指導する能力が不足しているように思いますし,基礎・基本の指導力そのものも高いとは思えません。なぜなら,基礎・基本の能力は,それを活用する中で深く理解され,身につくものだからです。そのことも理解できずに,ドリル学習などを用いた単純な繰り返し学習に子どもが飽きて,本人が嫌がっているのに「あなたのため」と基礎・基本の学習だけを強制するのは,教育の名を借りた虐待になりかねません。

 優れたESD教師は,どのように指導をしてどのような力を育てたらいいのかわかっていますから,基礎・基本の学力も活用能力も同時に育てられるのです。

ESD導入後の学力の変化《図版脚注》Bの「活用能力」が向上するとAの基礎・基本の能力も自然と向上する


 私は江東区立八名川小学校に平成22年4月に着任しました。それからESDへの取り組みを進めましたが,平成28年度の文部科学省学力学習状況調査では,算数の基礎・基本問題が5.68%,活用能力の問題では18.22%も向上しました。

 基礎・基本の成績を1%上げるのに大金をかけて,苦労している自治体も多いと聞きます。教育委員会が校長や教師を叱咤・激励し,子どもを放課後に残して学習指導させてもたいして変わらないとも聞いています。八名川小学校では,江東区からお預かりした予算の範囲内で,詰め込み教育もせずに,基礎・基本も活用能力も飛躍的に向上させているのです。

 八名川小学校では,Bの「活用能力」の向上に伴ってAの基礎・基本の能力も自然と向上したのです。しかし,Aの基礎・基本の能力を育てていれば,Bの活用能力が自動的に育つとは考えられません。活用能力は主体的・対話的で問題解決的な学習過程で育まれるものだからです。

 八名川小学校ではESDが定着し,教師一人一人が育っただけでなく,研究や実践の蓄積など,学校としての教育力が向上した成果が表れているのだと思います。また,子どもたちが先輩の取り組みにあこがれ,それを越えていこうとがんばる意欲も重要な教育推進力になっていました。校風という言葉があるように,温かで互いに認め合える対話的で受容的な雰囲気も,ESDを進める上で,大切な要素でした。

 結論ですが,ESDで学校づくりを進めると学力は飛躍的に伸びます。基礎学力も活用能力も育ちます。ESDは,子どもたちの未来をつくる重要な教育観なのです。


はい,今度は私からの質問ですよ。
《問い》これからの時代に,今までの教育でやっていけると思いますか。

これからの時代の教育
 上の図をご覧ください。かつての社会では,「10年ひと昔」というように,物事がゆっくりと変化していました。しかし,最近では世界のどこかで起こったことがあっという間に世界中に伝わり,社会を激変させています。株式相場の世界など,AIのシステムも取り入れて,何百分の1秒単位で動いているそうです。激変するグローバル社会では,従来の正解そのものも変わらざるをえないのです。

 20世紀までの工業化社会では,ものごとを上手に記憶して,正確にすばやく取り出せる情報処理力の高い人が優れた人でした。しかし,あらゆることが激変し多様化し,さらにAIまで活躍する未来の社会では,これまでとは求められる資質や能力が変わっているはずです。今までと同じ学びでは,未来の激変する社会の流れについていけませんね。

 では,これから先,どのような資質や能力が求められるのでしょうか。

 詰め込み式の学習指導で同じパターンの問題を繰り返し解かせて,『過去型学力』を向上させて,ものごとの本質を考えられない20世紀型の労働者を大量につくり出すだけでは,日本という国の基盤が失われると思いませんか。また,知識・理解の力を頼りに大学を卒業できたとしても,その先を生きていく道がないかも知れません。

 2020年(小学校),2021年(中学校)に向けた学習指導要領では,『生きる力』を掲げていますが,これは,「生きていればそれでよい」という意味ではありません。要は『厳しい時代をたくましく生きる力』を育てようというのです。だから,課題解決に必要な思考力や判断力,表現力の育成が求められていますし,主体的に学習に取り組む態度や,さまざまな人々と協働する力も重視されているのです。

 もちろん,豊かな心や創造性,健康で安全な生活と豊かなスポーツライフがそれらの学びの基盤となっているようにも思います。

 そして,これらの力は,知識注入型の授業では育ちません。主体的な課題解決能力は,課題解決的な学習過程をとおして育ちます。また,人と協働する力も,人と協働する場の中で育っていくのです。

《次回予定》
「ESDに取り組んでいたら,SDGsが出てきて困っています。」
「ESDとSDGsのどちらに取り組んだらいいのですか?」


手島利夫先生
手島 利夫

1952年東京都生まれ。
前江東区立八名川小学校長。ユネスコスクールとしてESDカレンダーの開発・ESD推進に携わる。
 2009年以来,ESD円卓会議委員等の役職を務める。2010年第1回ユネスコスクールESD大賞を江東区立東雲小学校が受賞。2012年第3回ユネスコスクールESD大賞を江東区立八名川小学校が受賞。2014年ユネスコESD世界会合参加。2015年博報児童教育振興会より,教育活性化部門で「博報賞」個人受賞。2017年,第1回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞。

◆著書◆
『学校発・ESDの学び』(2017年 教育出版)
共著『日本標準ブックレット 未来をつくる教育ESDのすすめ』(2008年 日本標準)

手島先生へのご質問,ご感想などはこちらまでお願いいたします。
1e-040-00@kyoiku-shuppan.co.jp

←第1回 「ESDって,私の学校でも取り組まないといけないのですか?」ほか へ

第3回 「ESDに取り組んでいたらSDGsが出てきて困っています。」ほかへ→


▶ Columnに戻る