言葉のてびき
教育出版株式会社 編集局
Q11 「独擅場」か「独壇場」か
「ドクセンジョウ」か「ドクダンジョウ」か,という読みの問題でもある。
本来「独擅場(ドクセンジョウ)」が正しく,明治時代に刊行された国語辞典には「独擅場」しか見あたらない。昭和11年初版『大辞典』(平凡社刊)には,「独擅場」の項に「独壇場はこの誤りか」とあり,昭和18年初版の『明解国語辞典』(三省堂刊)では,「ドクダンジョウ」も見出しに掲げ,「独壇場 どくせんじょうのなまり」としている。このころから,「独壇場」の用例がかなり見られるようになったのであろう。
「擅」は,「もっぱら。ほしいままにする。」の意で,「セン」という音をもち,これを「ダン」と読むことはない。なお,「独擅場」の意味は,「その人だけが思いのままにふるまうことができ,他人の追随を許さない場所・場面。独り舞台。」のことである。
では,なぜ「独壇場」という語が使われるようになったのかであるが,「擅」を「壇」と見誤ったか,「擅」を「ダン」と読み誤って「独壇場(ドクダンジョウ)」という言葉が生まれ,それが,「独り舞台」の意にひかれて,広く使われるようになったのであろう。
現在の用例では,むしろ「独壇場」のほうが一般的である。『岩波国語辞典』(岩波書店刊)では,「独壇場」を本見出しにし,「独擅場」を,から見出しにしている。また,『NHK編 新用字用語辞典』では「どくだんじょう 独壇場」しか見出しになく,『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞社刊)では,「独擅場」は「独り舞台,独壇場」に書きかえることになっている。
以上のことから判断すると,原文に「独擅場」とあれば,当然「ドクセンジョウ」と読むが,語の指導としては,むしろ「独壇場」を用いるほうがよいのではなかろうか。
やや似た問題に,次のようなものがある。
「カンカンガクガク」か「ケンケンガクガク」か
「カンカンガクガク(侃侃諤諤)」が正しい。「ケンケンガクガク(喧喧諤諤)」は,「カンカンガクガク」と「ケンケンゴウゴウ(喧喧囂囂)」とが混同して用いられた語であり,いわゆるコンタミネーション(意味や語形が似ている二つの単語または句が交差して,新しい単語または句ができること。)である。一般的にはかなり用いられているが,国語辞典や用字用語辞典などでは,まだ見出し語に取り上げられていないか,取り上げていても「誤用」と断っており,現時点では誤用の範疇に入るといえよう。
カンカンガクガク(侃侃諤諤)......何の遠慮もせずに盛んに議論するさま。
ケンケンゴウゴウ(喧喧囂囂)......多くの人が口々にやかましくしゃべるさま。
この記事は,画面の幅が1024px以上の,パソコン・タブレット等のデバイスに最適化して作成しています。スマートフォンなどではご覧いただきにくい場合がありますので,あらかじめご了承ください。