第3話 半か丁か(1)
--まどかが部屋で本を読んでいると,かずきがやってきて話し出した。
かずき「今,うちのクラスでは'賭(か)け'がはやっているんだよ」
まどか「見つかると先生におこられるよ」
かずき「ちがうよ。学校の授業で,'ゲームで算数'っていう総合的な学習の時間があって,その中でやっているんだよ」
まどか「ふーん。で,何を使って賭けをしているの?」
かずき「トランプやさいころや,自分たちでつくったカードなんかを使ってやっているんだ」
まどか「おもしろそうだね」
かずき「それでね,今日,ちょっとけんかになりかけたんだ」
まどか「何で?」
かずき「ほら,昔の賭けで,さいころ2個で'半(はん)か丁(ちょう)か'っていうのあるでしょ?」
まどか「極道の何とか,によく出てくるような?」
かずき「そうそう,それそれ。それでね,どっちに賭けるほうがいいか,っていう言い合いになったんだよ」
まどか「えーっ,そんなのどっちも同じじゃないの?」
かずき「そうなんだよ。だって,ふつうは'半'も'丁'も出る確率(かくりつ)はどっちも同じはずでしょ」
まどか「同じじゃなけりゃ,賭けにならないじゃない。当たり前でしょ」
かずき「ぼくもそう思うんだよ。でもね...。しょうたのヤツ,ちがうって言うんだ」
まどか「何て言うの?」
かずき「丁のほうが出やすい,って言い張るんだよ」
まどか「どうして?」
かずき「それが,調べてみればわかる,って言うの」
まどか「何言ってるのよ。調べなくてもわかるのに...。で,あんたやってみたの?」
かずき「うん,それであんまりしょうたがうるさいんで,みんなでやってみたんだよ...。でね,でね,何かわかんなくなってきちゃったんだ」
まどか「またなの,あんたの算数オンチが始まったってわけ」
--かずきがノートを持ってくる。ノートには調べたあとが書いてある。
かずき「ちょっと見てよ。'丁'は出た目の数の和が偶数(ぐうすう)の場合で,'半'はそれが奇数(きすう)の場合でしょ。ぼく,全部書き出してみたんだよ」
まどか「ご苦労さま。書くまでもないのにね」
かずき「'丁'になる場合ってこれだけだよね。
ぜんぶで12通りあるでしょ」
まどか「そうだね」
かずき「で,今度は'半'になる場合を書き出してみるとね...
これだけでしょ。これだけしかないでしょ?...ぜんぶで9通りなんだよ」
まどか「また何か忘れているのがあるんじゃないの?」
かずき「やっぱりそうかな...。ぼく,算数オンチだからなあ...。でも,何度数えてもやっぱり12通りと9通りなんだよ」
まどか「しょうがないなあ,じゃあやってやるか。ノート貸してごらん」
かずき「やったー。たのむよ,お姉ちゃん!」
まどか「えーっと,1と2,1と4,1と6,...。ホントだ。和が奇数になるのは,確かに9通りだね。'丁'となるのは,1と1,1と3,......,12通りだ。えー,何で?おかしいよ」
かずき「でしょ?同じじゃないんだよ」
まどか「ちょっと待って。もう1回,やってみる」
--何度も数えなおしているまどか。
かずき「実は,しょうたの言うとおり,'丁'のほうが出やすかったのかな」
お母さん「ちょっと,夕ごはんよ。何やってるの,2人で顔をつき合わせて」
かずき「お母さん。'半'と'丁'って,どっちが出やすいと思う?」
お母さん「何,とつぜんそんなこと聞いて...。どっちかしらね...,どっちでもいいけど,でも'丁半つける'って言うくらいだから,どっちも半々なんじゃないのかな」
かずき「だよね。絶対そうだよね。でも,そうならないんだよ。何で?」
お母さん「お父さんが帰ってきたら聞いてみたら...」
かずき「お父さん,お帰り!待ってたんだよ」
お父さん「ただいま!お父さんを待っていたなんて,珍(めずら)しいな。何だ?また欲しいものができたのかい?」
--かずきがお父さんに一部始終を話すと,
お父さん「おいおい,待てよ。仕事で疲れたんだからかんべんしてくれよ。お母さんに聞きなさい」
かずき「だめだよ。お父さん,大人でしょ。これくらい,すぐにわかるはずでしょ」
お父さん「お父さんだって,算数は苦手だっ...,あ,いや,とにかくお腹がすいたから,許してくれよ」
かずき「お父さん,ぼくにいつも『何事も挑戦(ちょうせん)することが大切だ』って言ってるじゃん」
お母さん「まあ,とにかくご飯にしましょう」