第4話 半か丁か(2)
--食卓でかずきのノートを見ながら,
お父さん「確かに,数えまちがえや落ちはないなあ」
まどか「そうなのよ。だから困っちゃってるのよ。どこがまちがっているのかな」
お母さん「よくわからないけど,サイコロの目の出方をもう少し整理してすっきりと書いたらどう?」
かずき「確かに学校の先生も言ってた。整理して表すことが'算数のよさ'だって」
お父さん「片方を1として,もう片方は1から6までの6通りの相手が考えられるよな」
--お父さんがかずきのノートに図を書き出す。
お父さん「片方が1の場合は,半(はん)と丁(ちょう)が3通りずつだよな」
--次に,片方が2の場合を書き出す。
かずき「やっぱり3通りずつだね」
--片方が3のとき,4のとき,...というように,次々とノートに書いていく 。
かずき「ぜんぶの場合が書けるんだ。こうして書くとわかりやすいね」
まどか「こういう図のことを,なんとか図って,学校でならったな。えーっと,えーっと,...あっそうだ,ジュケイズっていうんだ!」
かずき「ジュケイズ?」
お父さん「おお,そうそう,ジュケイズだ」
かずき「どんな意味?」
お母さん「樹の形って書いて,樹形図」
かずき「本当だ。樹みたいだね」
お父さん「書けた!これで全部だ」
--みんなでノートを見つめる。すぐに,半になる場合の数と,丁になる場合の数を数えるまどか。
まどか「半が18通り,丁も18通りだ!」
かずき「おねえちゃん,数えるの早すぎる!何でそんなに早いの?」
まどか「だって,どの樹形図も,半と丁が3通りずつなんだもん。樹形図はぜんぶで6つあるから,3×6=18で,18通りずつになるでしょ」
お母さん「すごい。頭いいわねえ」
お父さん「やっぱり,半になる場合も,丁になる場合も,同じ数じゃないか」
まどか「やっぱり,確率は同じ!ってわけね」
--ようやく数え終わったかずき。
かずき「でも,何でぼくが調べたときと結果がちがうんだろう」
--結果を見比べるまどか。
まどか「わかった!お父さんの方法とかずきの方法のちがいが」
お父さん「ほう,すごいな」
まどか「お父さん,本当にわかんないの?」
お父さん「いや,いや,...,わかるけど...,で,何なんだよ」
--まどかの表情がいきいきとしている 。
まどか「例えば,和が3になる場合はの時と
の時の2つあるのよ。かずきの調べ方だと,それを1回しか数えていないんだよ」
かずき「と
は同じじゃん」
まどか「そうなんだけど...。でも,そこにカギがあるんじゃないかな」
お父さん「そうだよな。や
のように,同じ目どうしの数え方はお父さんもかずきも同じ数え方なんだけど,ちがう目どうしは,かずきはすべて1回ずつしか数えていないよな」
まどか「...んーっ,もう,お父さんは本当にたよりにならないんだからだから,どっちが正しいのよ」
お母さん「なぞ解きになるかどうかわからないんだけど,でも,お母さんも中学生のとき不思議に思ったことがあったのよ」
かずき「何?何?」
お母さん「数学の時間にね,2枚のコインを投げたとき,(表,表)(表,裏)(裏,裏)のどの場合がいちばん出やすいか,っていう授業があったのよ」
かずき「2枚のコイン...でしょ?」
お母さん「クラスの人の多くは,(表,裏)の場合がいちばんだ,って言うの。だって,その理由は,(表,裏)の場合と(裏,表)の2種類が考えられるから,(表,表)や(裏,裏)の場合より,場合の数が多い,ってことなの」
まどか「あっ,そうか」
お母さん「最初は,お母さんも,まどかのように,『あっ,そうか』って思ったの。でもね,よく考えてみると,何だか納得できないのよね。(表,裏)が出やすそうな気がするんだけど,なんかすっきりしないのよね」
かずき「わかる。お母さんの気持ち!ぼくもどれが出やすいか,よくわかんない」
まどか「それで,お母さん,どうしたの?」
お母さん「それでね...,やってみたの,実際に」
--驚いた表情の子どもたち。
お母さん「家に帰ってきてね,やってみたの。10円玉2枚で,実際に机の上に投げてみたの」
かずき「どうだった?」
お母さん「1回や2回投げただけでは,偶然(ぐうぜん)かなって思ったから,何回も何回もやってみたのよ」
まどか「何回ぐらいやったの?」
お母さん「200回ぐらい」
かずき「えーっ,そんなに!?」
お母さん「そう,やってみたの」
まどか「それで,どうだった」
お母さん「どうだったと思う?」
お父さん「どうだったんだよ」
--みんなの視線がお母さんに集まる。
お母さん「やっぱり,(表,裏)がいちばん多く出たのよ!」
かずき「へーっ!やっぱりそうだったのか」
お母さん「正確な数は覚えていないけど,(表,裏)の出た数が(表,表)や(裏,裏)の出た数より倍近かったのよ」
まどか「2回ぶんってことは正しかったんだ」
お母さん「そうなのよ。でも,それですっきりしたの。本当の理屈(りくつ)まではわからないけど,でも,百聞は一見にしかず。やっぱり(表,裏)が出やすいんだ,って納得できて,すごく安心したの」
かずき「そうだよね。お母さんの気持ち,すごくよくわかる!」
お母さん「だから,さいころの目も,ちがう目どうしの場合は2回ぶん数えるんじゃないかな」
まどか「あんたも実際に,半が出やすいか,丁が出やすいか,やってみたら?そうすれば,納得するんじゃない」
お父さん「'賭(か)け',やるか。何,賭ける?」
お母さん「お父さん,変なこと教えないでよ」