第5話 点字のしくみ(1)
お父さん「ぷはー,フロ上がりのビールはやっぱりうまい!」
かずき「いいなー,大人は。ぼくも気持ちよく,ぷはーってやりたいよ」
お母さん「何言ってるの。ちゃんと二十歳になるまでだめよ」
かずき「あれ?お父さん,これ何?」
--ビールの飲み口にある小さな突起(とっき)を指差すかずき。
お父さん「ああ,これか。これはね,点字というんだよ」
かずき「点字?」
お父さん「視覚に障害をもつ人たちのためにつくられた文字なんだよ。この突起の部分を指で触(ふ)れることで,何が書いてあるかを判断することができるんだよ」
かずき「へーっ,すごいね」
--目をつぶって突起を触れるかずき。
かずき「こんなわずかな凸凹でわかるなんて,驚いちゃうな。でも,ここには何と書いてあるの」
お父さん「さあ?お母さん,何だろうね」
お母さん「何と書いてあるのかしら。『ビール』って書いてあるのかしらね。かずき,調べてみたら?」
かずき「えーっ,どうやって調べればいいの?」
お父さん「そんなの自分で考えなさい」
かずき「お父さんは,どうしていつもきちんと教えてくれないの? 調べ方も教えてくれることが大人の役目でしょ」
お父さん「お父さんも,これからこのビールの酔い心地(よいごこち)について調べるから,自分で考えなさい」
お母さん「インターネットで出てこないかしら」
かずき「そうか!」
--部屋のコンピュータに向かって点字に関する情報を検索しているかずき。
まどか「何やってるの?」
かずき「点字のことについて調べているんだ。」
まどか「点字かぁ。よく駅で切符の自動販売機や観光案内なんかにもあるよね」
かずき「そうなんだよ。さっき,お父さんの飲んでいるビールにもあって,結構面白そうなんだ」
--夢中で話し出すかずき。
かずき「そうだ!ねえ,ねえ,お姉ちゃん。これ何て書いてあるかわかる?」
--そこには,インターネットのあるサイトをプリントアウトした紙(図1)。
まどか「わかるわけないでしょ」
かずき「やったー。僕わかるんだ!」
まどか「ちょっと,すごいじゃない!」
かずき「黒くなっているところが,実際の点字では飛び出しているところなんだ」
まどか「ふーん」
かずき「これでね,こう読むの」
--得意げに紙に書きこむかずき(図2)。
まどか「へぇー,確かに『あたらしい』の『あ』と,『あなたに』の『あ』のところには,両方ともというのがあるね。『あ』はって表すんだ 」
--『し』,
『た』,・・・と,一つひとつの点字をじっとながめながらつぶやくまどか。
かずき「それでね...。お父さんのビールの飲み口にはこう書いてあったんだよ(図3)」
まどか「そうか。それを読むために,点字について調べたわけね。たまには,あんたもまともなことするじゃん。それで,これは何と読むの?」
かずき「うん。それが,わからないんだ」
まどか「えっ,何?あなた点字がぜんぶ読めるようになったってわけじゃないの?」
かずき「そう」
まどか「そうって,あなたが『お姉ちゃん,これ何て書いてあるかわかる?』なんて,わかったような口を利くから,てっきりあなたは読めるようになったのかと思ったら,...ちがうの?」
かずき「うん」
まどか「んーっ,もう,やっぱり,たよりにならないね!」
かずき「だって,この紙の中に同じものが一つしかないんだもん。でも,一つはあったんだよ。ラッキーだと思わない?のいちばん左は,『おくります』の『お』と同じだから,この3文字は『お○○』だよ」
まどか「あのねぇ,そんなの誰が見たってすぐわかるの。他の文字を何て読むかがわかって,はじめて価値が出てくるの!」
かずき「そうだよね。さすがのお姉ちゃんにもわからないよね」
--ふっとため息をつくまどか。
まどか「でも,何かしくみがあるかもしれないね」
--まどかの視線が,また紙に注がれた。