第6話 点字のしくみ(2)
お父さん「あーっ,夏はやっぱりビールだね。お母さん,お願い,もう1缶(かん)!」
かずき「あれ?お父さん,まだ飲んでるの?」
お母さん「そう,もう4缶目よ」
かずき「1つの缶にどれだけ入っているの?」
お母さん「350ml」
かずき「350mlの4倍かぁ。1200mlよりもっと多い...,1400ml!ってことは,1.5リットルのペットボトルぶんくらいお腹に入っちゃうの?」
お父さん「さすが,よく計算できました。でも,なぜかビールは飲めちゃうんだよね」
--まどかがやってくる。
まどか「かずき!わかったよ,点字」
かずき「本当!?」
まどか「大丈夫!ばっちりよ」
お父さん「何だ。まだ点字のこと調べていたのか」
まどか「もう,お父さんはすっかりごきげんになっちゃって!点字のしくみがわかってきたのよ」
お母さん「すごいわね。教えて,教えて!お母さん,点字が読めるようになったら,視覚に障害のある人たちのボランティアをしたいと思っていたのよ」
--テーブルに五十音が書かれている紙をひろげるまどか。
まどか「まずは,かずきが調べた点字を埋(う)めてみるわね」(図4)
まどか「これを,よーく見て!」
--紙をのぞきこむ3人。
まどか「6つの点を①から⑥まで番号をつけるの(図5)。そうするとね,例えば『タ行』を見てよ。必ず,④と⑤のところが黒くなっているでしょ」
お父さん「何か,おもしろいぞ。『金田一少年の事件簿』,みたいだな」
まどか「へへっ。今度は『ナ行』を見て。『ナ行』は必ず⑤のところが黒くなっているでしょ」
かずき「それがどうしたの?」
まどか「まだわからないの,あんたは。と,いうことは,『タ行』かどうかを決めるのは,④と⑤が飛び出しているかどうかなんじゃないか,って」
お母さん「そうか。そうすると,ラ行は『ら』も『り』も『ろ』も④だけは黒くなっているから,もしかしたら④だけが飛び出しているときはラ行,ってことね」
まどか「さすが!お母さん」
お父さん「でも,『タ行』や『ナ行』や『ラ行』だってことがわかったとしても,それが『タ』なのか『チ』なのか『ツ』なのか,ってのはどこで見分けるんだい」
まどか「そうなのよ,お父さん。いいこと聞いてくれるよね!」
お父さん「それほどでも...」
かずき「お姉ちゃん,それもわかるの?」
まどか「もちろん!いい? 『タ』はタ行の一番最初。つまり『ア段』,でしょ?それで『ア』を見てよ。『ア』は①が黒くなっているでしょ。だから,『タ』は,④と⑤で『タ行』,あと①で『ア段』。だから,①,④,⑤が飛び出している,ってワケ!」
かずき「ホントだ!『タ』は①,④,⑤が黒くなっているね」
まどか「つまり,④,⑤,⑥で何の行かを,①,②,③で何の段かを,それぞれ表しているんだよ」(図6)
お母さん「①,②,③が母音で,④,⑤,⑥が子音,を表している,ってことね」
お父さん「すごい!名推理だな」
かずき「母音と子音?」
まどか「そう,そう!そうか,そんな言い方,国語で習ったわ」
お母さん「そうすると,『チ』は,『タ行』の④,⑤と,『イ段』は①と③だから,となるのね」
まどか「さすが!お母さん」
お母さん「ちょっと,調子が出てきたわ。他のも埋(う)めてみようっと」
--紙を眺めながら,エンピツを走らせるお母さん。かずきもお父さんも手伝って,表が次第に完成してくる(図7)。
かずき「やったー。ずいぶん埋まったね」
お父さん「でも,まだ全部埋まってないな」
お母さん「『ハ行』と『ヤ行』,それに『ワ』と『ン』ね」
まどか「そうなの。かずきが持ってきた文章からは,それがわからないの」
かずき「じゃ,やっぱりダメなのか」
まどか「でもね,ここからが本領発揮なのよ。④,⑤,⑥の子音を表す部分の中で,⑤,⑥が黒,という組み合わせがまだ用いられてないの」
お母さん「④,⑤,⑥の3つの点で表わすことができるのは,何通りあるの?」
お父さん「それは...,えへんっ!それくらいはお父さんにまかせなさい」
かずき「お父さん,だいじょうぶ?」
お父さん「1つの点が,黒か白かどちらかの2通りが考えられるから,えーっと,確かそれが点3つで,2×2×2で8通り。8通りの表し方ができるはずさ」
かずき「すごいね,お父さん」
まどか「そのうちの7通りはもう使っているの。⑤,⑥が黒のパターンだけがまだなの。だから,『ハ行』か『ヤ行』がそのどちらかのはずなのよ。で,私が思うに,それはおそらく『ハ行』だと思うの」
お母さん「『ヤ行』は『ヤ・ユ・ヨ』の3文字だけど,『ハ行』は5文字もあるしね」
--まどかは,ニコッと笑って,1枚の紙を取り出す(図8)。
かずき「わっ,五十音表ができてる!」
まどか「インターネットで,点字のサイトを調べていたら,五十音表を見つけたの」
--まじまじと見つめる3人。
かずき「すごい,お姉ちゃんの推理どおり,『ハ行』は⑤,⑥が黒になってる!」
まどか「でしょ!」
お母さん「すごいわね。6つの点で五十音を上手に表すことができるのね」
--感心する3人。
お父さん「ところで,ビールにはなんて書いてあったんだ?」
かずき「待って,『お』はわかったから,あとの2つは...,えーっと,2番目は『さ』かな?3番目は...」
お父さん「『お』・『さ』・『け』,か!」
かずき「そうだ!お酒,だ。これで,お酒って読むんだ」
お父さん「缶だけの手ざわりでは,ジュースかお酒か,わからないものなぁ」
かずき「ねえ,ねえ,ぼくの名前の『かずき』もできるかなぁ。『か』と『き』はわかるけど,『ず』はどうするんだろう」
お母さん「『ず』は濁音(だくおん)だから,『す』の前に濁音の点字をつければいいんじゃない?」
まどか「そうよ!」
お父さん「そうか。組み合わせれば,何でも表せるんだ。すごい発明だなぁ...。でも,数字やアルファベットはどうするんだ?」
まどか「そこまでは...,調べなかったな...」
お父さん「よしっ!ついでに,そこまでやっておけ!宿題だっ!」
お母さん「お父さんったら...」
--お父さんに見えないように,まどかに話しかけるお母さん。
お母さん「よく調べたわね,まどか。お母さん,本当に感心したわ。...(小声で)いいわっ,お母さんがこの続きは調べておくわ」
まどか「お母さん...」
お母さん「お母さんだって,まどかのがんばりに負けられないわ!」
--次の日の夕食でのこと。
お母さん「お母さん,点字について,さらに調べたわよ」
かずき「すごい,お母さん」
お母さん「数字とかアルファベットについてもだいじょうぶよ」
--1枚の紙をもってくる(図9)。
まどか「すごいね。お母さん」
お母さん「今日,図書館に行ってきたのよ。そこで,調べたの」
お父さん「やるなぁ,お母さん」
お母さん「まどかに刺激されたのよ。図書館には,点字の図書もあることがわかったわ。視覚に障害のある人たちのボランティアに参加するためにも,お母さん,点字本の作成に参加しようと思うの」
まどか「がんばって,お母さん!」
かずき「がんばって,お母さん!」