第20話 我が家も参院選(1)
--新聞に目を通していたお父さん。
お父さん「『参院選終わる!民民党躍進動いた無党派層』か。今回の選挙はなかなか劇的(げきてき)だったなぁ」
かずき「サンインセン?」
お父さん「かずき,おまえももう6年生なんだから,そろそろ世の中のしくみというか・・・,政治や経済の事に少しは関心をもつようになったらどうだ」
かずき「ぼくの経済問題は,お小遣いをどうやって値上げしてもらうか,なんだな」
お父さん「そんな小さいこと言ってないで,これからの日本の将来について,少しは語るくらいの器量を,なぁ・・・」
かずき「お父さんこそ,我が家の将来を語ってよ。こんどの旅行,どうするの?みんな,信州や那須とか,いいところに出かけていってるんだけどなぁ」
お父さん「うっ,ううん,・・・まあその話はだな・・・,あっ,お母さん,ちょっとお茶ちょうだい!」
かずき「もう,すぐにごまかすんだから」
お母さん「かずきも,あんまり無理を言わないの。お父さんも忙しいんだから」
お父さん「さすが,我が家の総理大臣!」
かずき「はい,はい。しょうがないなぁ。いつもそうやってうやむやになっちゃうんだから。あーあ,選挙が終わって,これで世の中少しは変わってくれるのかなぁ」
お母さん「でも,日本の国会が参議院と衆議院の2つに分かれていることぐらい,知っていてもいいんじゃないの?」
かずき「いいよ,そんなこと知らなくても。中学生になったらちゃんと勉強するから」
お母さん「私,いまだによくわからないのよねぇ。この前の参議院の選挙で,選挙区と比例区って,2つ投票したでしょ。あれって,何が違うの?」
お父さん「選挙区の選挙は,人の名前を書いただろう。選挙区は,個人に投票する選挙なんだよ。この人にお願いをしたい,っていう人の名前を書くんだ」
かずき「あっ,児童会の会長の選挙と同じだね」
お父さん「そうさ。得票の多かった人が当選するんだ」
お母さん「じゃ,もう一つの比例区は?」
お父さん「あれは,自分が支持する政党に投票するんだよ。だから,投票用紙にも,○○党,とかって書いたろう?」(注)
お母さん「そうね。でも,それからどうなるの?」
お父さん「その後?なんだ,知らないのかい。お母さんも,かずきのことを言ってられないなぁ。つまり,支持の多かった政党から,その支持の多さに合わせて当選者が決まっていくんだよ」
お母さん「それはわかるのよ。でも,その『支持の多さに合わせて』って言うけど,それは,誰が,いつ,どうやって決めてるの?」
お父さん「誰が,いつ・・・って。それは・・・,選挙の責任者が,その得票数を見て,決めているんだ」
お母さん「どうやって?」
お父さん「それは・・・。その,つまりだな,その得票数の多さに合わせて・・・だな。そうだよな,おい。まどかはどこにいった?まどかぁ・・・」
まどか「何よ。いきなり私にふらないでよ。私,今数学の宿題中。もう,この関数っていうのが,どうもよくわかんないのよ。もう,友達にメールで聞いちゃおうかなぁ」
かずき「お姉ちゃん,比例の選挙って知ってる?」
まどか「ぎゃあ,何,あんた。だから,私は『比例』とか『反比例』とか『関数』っていうのを聞いただけで,もう何だか鳥肌がたってくるんだからぁ」
お母さん「違うのよ。選挙で比例代表制ってあるでしょ?まどかは,あのしくみを知っている?」
まどか「えーっ,比例代表制?何それ・・・。あーっ,何かで聞いたことがある」
かずき「おっ,さすがお姉ちゃん!」
まどか「確か,支持の多さに合わせて当選者が決まっていくってやつでしょ?」
かずき「それって,お父さんとまったく同じ・・・」
まどか「いけないって言うの!ったく,人が比例で苦しんでいるっていうのに!」
お母さん「そう怒らないで。支持の多さに合わせて,というのわかるんだけど,それを実際はどうやって決めているのかがよくわからないのよ。例えば,3つの政党があって,選挙の結果 がこうなったとするじゃない」(下表)
お父さん「何でもいいけど,何でお父さんの支持がいちばん少ないんだ?」
かずき「いいじゃん,いいじゃん」
お母さん「これでね,例えば,ぜんぶで5人の人を選出するとするわよ。この結果から,それぞれ何人ずつ選ばれることになるのかしら」
お父さん「そりゃ,お父さんのとこから1人,かずきのところからも1人,まどかのところから3人,じゃないのか」
お母さん「どうして?」
かずき「そうだよ,何でぼくとお父さんのところが同じ人数なんだよ」
お父さん「だって,いちばん多いのがまどかのところだから,ほとんどまどかのところから選ばれるっていうことで,あとは最低1人ずつってわけさ」
かずき「そんなの,何かいいかげん。もっときちんとした理由がないとだめだよ」
お父さん「本当は,お父さん党1人,まどか党2人,かずき党2人,っていうのも考えられるかな,とも思ったんだけれど,まどか党とかずき党の得票差を考えると,同じ当選人数っていうのじゃまずいなぁ,と思ってね」
かずき「当たり前だよ」
お母さん「まどかはどう思う?」
まどか「うーん,得票数の割合で考えるとこうなるわよね」(下表)
まどか「その割合で5人を分けると,次のようになるわよね」
かずき「うわぁ,すごい半端(はんぱ)な数ばっかり!」
まどか「そうなのよねぇ。そうすると,端数(はすう)を四捨五入するしかないのよね。四捨五入すると,お父さん党が1人,私の党が3人,かずき党が2人,ってとこかな」
お母さん「そうすると,ぜんぶで6人になっちゃうわね。どこかの党から減らさないといけないわね。」
まどか「かずき党にがまんしてもらって,1人にしてもらうわね」
かずき「そんなの,お父さんと同じ結果じゃないかぁ。ぼくのところとお父さんのところは,125票と340票で,2倍以上の開きがあるんだよ。同じ当選人数なんて,納得できないよ」
まどか「確かに,それはそうなんだけれど・・・。でも,この端数がどうにもならないのよねぇ」
かずき「そんなの許せないよ。反乱がおきるよ!」
まどか「私の党から1人減らすと,私の党とかずきの党が同じ当選人数になっちゃう。お父さん党から1人減らすのも考えられるけど・・・」
お母さん「ねえ,実際の参議院の選挙でも,この方法なのかしら」
お父さん「うーん。ただ,この方法だと,かずきの言うとおり,結果によっては政党間でけんかになるかもしれないなぁ」
まどか「『比例代表制』かぁ・・・」
お母さん「まどか,調べてくれない?」
まどか「確かに,ちょっと気になるもんね」
かずき「僕も手伝うよ」
まどか「よし!」