第14話 1年たつと...?!(1)
かずき「ねぇ,ねぇ,聞いてよ。うちのクラスの先生,すごいんだよ」
お母さん「どうしたの?」
かずき「先生がね,『このクラスとも3月でお別れだよなぁ』っていうんだよ」
お母さん「そうね。5年生ではクラスがえがあるものね。でも,それはかずきのクラスだけじゃないでしょ?そんなに興奮することでもないでしょ...」
かずき「それがね,お母さん!先生がね,『このクラスで君たちといっしょに勉強できて,先生は本当に楽しかった』って言うんだよ」
お母さん「??」
かずき「わかる?『楽しかったんだって』」
お母さん「それは,よかったわね。かずきも毎日楽しかったものね。でも,担任の先生はだいたいみんなそう思うんじゃないの?いったい何がそんなに『すごい』の?」
かずき「それがさぁ,『みんなと楽しく勉強しているうちに先生にも"不思議な力"がついてきた』って言うんだ」
お母さん「"不思議な力"!?」
かずき「そうなんだよ。"不思議な力"!」
お母さん「何,それ?」
--かずきは,おやつのジュースを一口飲む。
かずき「それがね,急に『何でもいいから,頭の中で一つ好きな数を思い浮(う)かべてごらん』って言うんだ」
お母さん「ふーん...。かずきは何にしたの?」
かずき「ぼくはね,今日は3月12日だったから,黒板に『12』って書いてあったんで,『12』にしたんだ」
お母さん「それで?」
かずき「先生がね『みんな,その数は決して忘れてはいけないよ』って言うんだ。だから,ぼく,机の下で,手のひらにずっと,『12,12,12・・・』って,書いていたんだ」
お母さん「そうねぇ,かずきは忘れんぼうだからね」
かずき「そしたら,先生が『その数を10倍してください』って言うんだ」
お母さん「あら,ちょっと難しくなるわね」
かずき「何いってんだよ。10倍なんか簡単じゃん。いくらぼくが算数が苦手だからって,10倍くらいはすぐできるよ。0を一つつければいいだけでしょ!」
お母さん「そ,そうね」
かずき「手のひらに,『120,120...』って書き出すとね,先生は『次はちょっと難しいよ』って言うんだ」
--かずきは,また一口ジュースを飲む。
かずき「それがね,今度は,『かけ算の"9の段"の答えを一つ思い浮かべてごらん』って言うんだよ。"9の段"の答えってさ,たくさんあるじゃないか」
お母さん「そうよねぇ」
かずき「そうなんだよ。ぼくの頭じゃ,たいへんなんだよ!この前もお姉ちゃんに,『かずきは2つの事を頼(たの)むと,必ず1つは忘れるんだから』って,怒(おこ)られたばっかりなんだから...」
お母さん「それで...。それで,どうしたの?」
かずき「"9の段"の答えを思い出したんだよ。九一が9,九二18,九三27...,ってね」
お母さん「何だか...,本当にあなたったら,だいじょうぶだった?」
かずき「うーん...,ちょっと心配になってきたら,先生が『自由帳を出して,計算してもいいよ』っていうから,ノートを出したんだ」
お母さん「最初に思い浮かべた数は忘れなかった?」
かずき「いやだなぁ!だいじょうぶだよ,『12』!ほら,そのノート!」
--かずきがランドセルからノートを取り出す。
お母さん「かずきは,"9の段"の答えは,81にしたんだ」
かずき「そう。覚えやすいでしょ?」
お母さん「それで,次は?」
かずき「そしたらね,『頭に浮かべた数を10倍した数から,その9の段の数をひいてごらん』なんてたいへんなことを言うんだ」
お母さん「へぇー。それは,たいへん」
かずき「だから,急いで計算したんだよ,ほら」
--ノートには,計算の跡。
お母さん「39ね。計算は合っているわ」
かずき「でしょ!すごいでしょ。先生は『その数も忘れるなよぉ』って言うんだ」
--かずきがコップに残ったジュースを一気に飲み干すと,
かずき「みんなが計算が終わったら,先生がこう言うんだよ。『先生についた"不思議な力"って言うのは,君たちと1年間ずっといっしょに生活してきたおかげで,君たちの考えたことまでわかるようになってしまったんだ』って!」
お母さん「あらぁ,すごいわね!」
かずき「そんなのあると思う?そりゃ,誰(だれ)かが黒板にいたずら書きをすると,先生は『この絵は○○くんのしわざだな』とか,落とし物があると『これは○○ちゃんが使っていたものだ』とか,結構当てていたから...」
お母さん「さすが先生だわ」
かずき「でも,一人ひとりの考えていることなんて,みんなバラバラじゃないか。そんなのまでわかっちゃったらたいへんだよね」
お母さん「そうよね」
かずき「でも先生は言うんだ。『みんなの考えていることはわかる』って。『例えば,今みんなが最初に頭に浮かべた数もわかる』って言うの」
お母さん「本当に!?」
かずき「そうなんだよ。それでね,先生が『例えば...』って言って,いきなりぼくが当たっちゃったんだ」
お母さん「あら,それで先生は,かずきの浮かべた数を当てたの?」
かずき「『かずき君の顔をじっと見ているとわかる。"12"でしょ』って。ぼく,もうびっくりしちゃってさぁ!」
お母さん「すごいわね!」
かずき「クラスのみんなも大騒(さわ)ぎさ」
お母さん「どうしてわかったのかしら」
かずき「『かずき君は,今日の日付を浮かべたって気がしたんだ』って。すごいよね,先生って。ぼくの顔見てるだけでだよ。本当に"不思議な力"がついちゃったんだね」
お母さん「他のお友達の数も当てちゃったの?」
かずき「そうなんだよ。ひろき君や ちあきちゃんや,それから ともみちゃんの数も,みんなピタリと当てちゃったんだよ」
お母さん「ちょっと,すごいことじゃない。人の心の中を「よむ」ことができるなんて。お父さんやまどかにも,ぜひ教えてあげましょうよ!」
1けたの数を思い浮かべたときは,9の段の数の選び方によっては[頭に浮かべた数を10倍した数]から[9の段の数]をひけないことがあります。このときは,9の段の数のうち,ひき算できる数を選んで下さい。
例:4をえらんだとき
4×10=40 [思い浮かべた数を10倍した数]